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【WEB版】婚約者に浮気された令嬢は異国の強面盟主に溺愛される〜呪いで猫になりましたが、毎日モフられています〜【コミカライズ・電子書籍4巻配信中】  作者:
第二章〜解呪編〜

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高山病になりまして

 倒れた私はバーク様に再び抱かれて城へ運ばれた。いつの間にかバーク様の腕の中で眠っていて、目が覚めた時にはベッドの上。白い天井と差し込む夕陽が眩しい。


 場所を確認するために顔を動かしたら悲痛な声が耳に飛び込んだ。


「ミー! 起きたか!? よかった!」

「……バーク様?」


 椅子を飛ばして立ち上がったバーク様が駆け寄る。


「調子が悪かったのに気づかなくて、すまなかった!」

「いえ、別に体調は悪くなかったのですが」


 自分でもどうして倒れたのか分からない。

 そこへオンル様がやってきた。よく見れば近くの机に書類があり、二人はそこで仕事をしていたらしい。たぶん心配したバーク様がオンル様に無理を言って、ここに書類を持ち込んだのだろう。

 オンル様がバーク様にむけて軽くため息を吐く。


「高山病ですよ。だから、毛玉に無理をさせたら倒れると言ったのに」

「高山病……?」


 聞いたことがない病名に私は軽く首をかしげた。


「その名の通り標高が高い地へ行くと出る病気です。低い土地から徐々に高い土地へ移動した場合はおきませんが、今回のように急に高い土地へ移動すると発症する病気です。症状としては息苦しさや二日酔いのような気怠さ、頭痛などで、人族や飛ばない種族がなりやすい病気です」

「……息苦しさはありませんが、体が怠いです」

「体がここに慣れるまで、無理をしないことです。数日で症状は消えますが、低地の時と同じ感覚で動けば、すぐに息が切れます」

「治療魔法で治らないのか!?」


 バーク様の言葉にオンル様が肩をすくめる。


「治療魔法では一時的に症状を抑えるだけですから。ひと月ほどで体は慣れますから」

「ミー、すまねぇ! オレが調子にのって連れ回したから!」


 枕元でバーク様が頭をさげる。私は慌てて体を起こそうとして痛みで顔を歪めた。


「っつ……」

「ミー、頭が痛いのか!?」


 頭を押さえて体を起こした私をバーク様が支える。


「私は大丈夫、ですから。バーク様はお仕事を……」

「それよりミーの体のほうが大切だ!」

「そんな大事(おおごと)な状態ではありませんから」

「けど!」


 そこでオンル様がバーク様を私から引き剥がした。


「はい、はい。あとは使用人に任せてバークは仕事をしてください」

「ミーの介抱がしたいんだよぉ!」

「それなら、さっさと仕事を終わらせてください。仕事が終わったら、いくらでもして良いと言ったじゃないですか」

「チクショー」


 バーク様が後ろ髪を引かれるように机へ戻る。入れ替わるように王都の屋敷で慣れ親しんだ使用人……Aが私のところへ来た。

 立派な体格で気が利く、目元にホクロの使用人Aさん。使用人のみなさんは全員『使用人A』と名乗るため、本名を知らないし、教えてもらえない。


「なにか召し上がられますか? スープや果物もありますよ」

「じゃあ、果物を少しください」

「頭痛に効く薬湯もお持ちしましょう」

「ありがとうございます」


 ポキッ。


 バーク様の手の中でペンが折れた。その姿にオンル様が微笑む。


「バーク? それは何本目のペンでしたっけ?」


 美麗な笑みなのに。絵画のごとく綺麗な顔なのに。真冬の雪山のごとく空気が痛い。

 こんな状況なのに使用人Aさんは慣れた様子で頭をさげて退室する。いや、穏便に逃げただけかも。

 顔を真っ青にしたバーク様にオンル様が言葉を続ける。


「嫉妬するなら執務室に切り替える、と言いましたよね?」

「い、今のは嫉妬じゃねぇ! ちょ、ちょっと力加減を間違えただけだ!」

「問答無用。毛玉も休めませんし、執務室に移動します」


 オンル様が手元の鈴を鳴した。それだけで使用人さんたちがなだれ込み、机ごとバーク様を強制移動させる。


「ミー! すぐに戻るからなぁぁ……」


 遠ざかっていくバーク様の声。白い部屋は急に寂しくなった。


「こんなに、広かったのですね」


 ベッドの先には絨毯が敷かれた広い空間。その先にはアーチ型の大きな窓が並び、大きなバルコニーがある。

 静寂から逃げるように私はベッドにもぐった。


「また、迷惑をかけて……せっかくバーク様が誘ってくださったのに」


(もっと一緒に歩きたかった……)


 私はキュッと体を丸くする。


「ダメ、ダメ。元々、身分違いなんだから。あまり近づきすぎたら離れる時が辛くなる……」


 ただでさえ竜族と人という種族違いもある。しかも、バーク様は竜族の王。今は仕事で王都にいるけど、そのうち竜族の里に帰る。

 いつまでも側にいられるとは限らない。


(その時に笑顔で見送れるようにしないと)


「それに、解呪したら……猫になれなくなったら、バーク様の興味も薄れる、かもしれない…………」


 じわりと涙があふれる。私は慌てて顔を枕に押しつけた。体が重くて、しんどい。


(これは病気のせいだから)


 なにも考えたくない私はギュッと目を閉じた。



 そのまま眠っていた私は微かな物音で目を開けた。部屋は暗く、窓から月明かりがカーテンのように差し込む。


「お、起きたか?」


 目元を柔らかくして微笑むバーク様。強面の顔立ちだから分かりづらいけど、こんなにイケメンなんだから、私よりもっと美人で身分がある人を選んでも良いのに。


 じっと見ていたら、バーク様が私の顔に触れた。


「どうした?」

「い、いえ。なんでも……ありません」

「……頭が痛いのは、どうだ?」


 私は体を起こした。ツキンと痛むが我慢はできる。


「夕方より楽になりました」

「飲め」


 バーク様が薬湯が入ったコップを私に押しつけた。


「で、ですが……」

「痛みは我慢するな」

「これぐらいなら大丈夫です」

「ミー」


 まっすぐ見つめる黄金の瞳。私は思わず息を呑んだ。


「全然、大丈夫な顔してないぞ。慣れない旅に慣れない場所なんだ。無理はしないでくれ」

「……」


 今にも泣きそうなバーク様の顔に私はなにも言えず、無言でコップを受け取る。苦味がありそうな独特な臭い。

 私は息を止めて一気に飲んだ。


「ぅ……」


 予想通りのなんとも言えない苦味が口の中に広がる。苦味に耐えていると、バーク様が私の口にナニかを突っ込んだ。


「んん!?」

「口直しの桃だ」

「モモ?」


 桃は初夏に採れる果物。痛みやすく長期保存はできない。でも、口の中の桃は甘く瑞々(みずみず)しく採れたてのようで。


「な、なぜ、桃が?」

「魔法で長期保存している。体が弱っている時は食べやすいだろ?」

「そんな貴重な桃を!?」

「貴重って、夏になればまた採れるし、ミーが食べられるなら、その方がいい」

「ですが……」

「ミー」


 バーク様が鋭い視線で私の言葉を止める。


「こういう時は、ありがとう、だろ?」

「……あ、ありがとう、ございます」

「そう、そう。ほら、あーん」


 フォークに刺した桃を私の口元に差し出す。恥ずかしいけど、断れそうにない雰囲気。

 私は口を開けて桃を食べた。甘い果汁で乾いていた喉が潤う。私なんかに勿体ないと思いながらも食べてしまう。

 結局、桃を食べきった私はバーク様に訊ねた。


「そういえば、お仕事は?」

「今日の分は終わらせたぞ。だから、存分に介抱できるんだ。なんでも言ってくれ」


 期待に満ちた目。でも、特にしてほしいこともなく逆に困ってしまう。

 悩む私にバーク様が笑顔で話す。


「他に食べたい物があったら持ってくるぞ。汗かいてないか? 体、拭くぞ。あと、トイレに行きたくなったら言ってくれよ。運ぶから!」

「も、桃だけで十分です!」


 恥ずかしくなった私は両手で顔を隠して俯いた。


(トイレだけは一人でいかせてください!)


 その後。このことで本当にバーク様に運ばれそうになるとは思いもしませんでした。完全に拒否しましたが。



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