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【WEB版】婚約者に浮気された令嬢は異国の強面盟主に溺愛される〜呪いで猫になりましたが、毎日モフられています〜【コミカライズ・電子書籍4巻配信中】  作者:
小話・季節ネタ編

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24/93

寒い日は・前編

 まだまだ冬の真っ只中。しかも今日は一段と寒い。

 私は仕事で出かけるバーク様を見送るため、玄関に来ていた。オンル様と護衛の使用人二人を連れたバーク様が愚痴る。


「こういう日に限って外回りの仕事って……あー、行きたくねぇ」

「今日、下見すると決めたのはバークでしょう?」

「そうだけど、こんなに寒くなるなんて思ってなかったんだよ」


 二人の会話の間を縫って私はバーク様の首にマフラーをかけた。


「あの、風邪をひかれないように、お気をつけて」

「ミーの優しさがあったけぇー! 仕事いきたくねぇよぉぉぉお!」


 バーク様が目を潤ませて私を抱きしめる。しっかり着込んで太くなった腕と胸に埋もれてしまった。

 私はなんとか顔を出して話す。


「なにか温かいものを準備して帰りを待っていますから」

「あー、もう! 本当にミーは優しいなぁ」


 感動したように叫ぶバーク様の襟首をオンル様が掴む。


「はい、はい。いいかげん行きますよ」

「オンルの薄情者ぉぉお!」


 オンル様がバーク様を引きずりながらドアを開けた。突き刺すような冷たい風が容赦なく吹き込み、一瞬で玄関の温度を下げる。


「さみいぃ」


 バタン。


 容赦なくドアが閉まり、バーク様の叫び声が途切れた。ドアが開いた短い時間に入ってきた風だけで体が(こご)える。なら、外はどれだけ寒いのか。


「バーク様が帰られた時にすぐ温まれる物を準備しないと。温かい飲み物とか、湯たんぽ、でしょうか……たしか、湯たんぽは倉庫にあったような」


 私は上着を羽織り、屋敷の端にある倉庫へ移動した。倉庫は屋敷の外れにあり、風がないため外よりはマシというぐらいで十分寒い。


 私は白い息を吐きながら倉庫内を物色した。定期的に掃除がされており、埃はなく整然と物が並ぶ。顔を横に向けると、綿が入った布団と机が目に入った。


「これは……」


 私は見覚えがあるソレ(・・)に触れた。



 あれは、猫になった私が人に戻れることを知らなかった頃。バーク様が突然、自室用に暖房器具を買ってきた。


 それは、あまり大きくないローテーブルに布をかけた代物。バーク様は自室の応接セットを動かし、新しい絨毯を敷いてソレを置いた。

 私は初めて見る不思議な机に興味を持ち近づいた。


「お、ミー。気になるか? これはな、コタツって言うんだぞ」

「ふゃにゃにゃ?」

「東国で冬に使われる暖房器具で、なんでも猫がすごく喜ぶらしい」

「うにゃ?」


(もしかして、私のためですか? バーク様は猫に関する物になると、すぐに買ってしまう気が……)


 そんな無駄使いしてほしくないのに、と考えている間にバーク様はコタツの上に木の板を置いた。


「よし、これで完成。ほら、ミー。入ってみろ」


 布をめくられて中へ誘導される。私は恐る恐るコタツに入った。

 上から(ぬく)もりが降り注ぐ。下の絨毯はすでに温められ、ほんのりと気持ちいい。


 私は温もりが降り注ぐ真下で腰をおろした。春のお日様のようなポカポカとした暖かさ。


「温度も丁度いいみたいだな。テーブルの上に四角い箱があるだろ? そこに火の魔石を入れているんだ。焼けることはないと思うが、近づきすぎないようにな」

「んにゃ」


 私は軽く返事をして頭を下げた。そのまま寝る姿勢に。それから、しばらくして……


「ふんにゃー!」


(暑い!)


 最初は気持ちよかったのに、ジリジリと熱せられ、春の暖かさから真夏の灼熱へ。丸焼きにされる肉の気持ちが少しだけ分かったような。


 私は体を冷やすため、一度コタツの外に。すると、今度は急に寒くなり。再びコタツに入るが、全身が暑くなってすぐに出る。これを繰り返すこと数回。


「ふにぁ……」


 私は悩んだ。どうすれば、この暖房器具を心地よく使えるのか。


「どうした、ミー? 入らないのか?」


 バーク様が私をコタツへと誘導する。私はバーク様を見上げて閃いた。


(全身でコタツに入るから暑くなりすぎるんだ。バーク様のように下半身だけ入っていれば)


 私はバーク様に誘導されてコタツの中へ。そして、くるりと向きを変えると、顔と上半身だけを布から出した。

 体は適度に暖かく顔は冷えているから、のぼせない。


「うにゃーん」


 やっと自分に合った入り方を見つけた私はそのままウトウトと眠った。


 それからコタツがお気に入りになった私。少しずつコタツで過ごす時間が増え……



「ミーが膝にのってくれねぇぇぇえ」



 バーク様が泣いてしまいました。そして、いつの間にかコタツは撤去され、応接セットが元の位置に。

 そんなことを思い出しながら私は考えた。


「これなら、冷えた体も手足も温まりますし……」


 悩んだ末に私は気合を入れて机を持ち上げた。思ったより重さがある机を引きずらないように倉庫から出す。

 コタツの布団と上に載せる板と絨毯も出して倉庫のドアを閉めた。


「一度にすべてを運ぶのは無理なので少しずつ……」


 私は机の上に置く板を持つ。ツルツルとしていて手が滑りそうになる。


「ちょ、ちょっと重い……ですね」


 見た目より重量がある板をフラフラと運ぶ。間違って足に落としたら大変なことになりそう。

 とにかく落とさないように慎重に歩いていると、頭上から声がした。


「どうされました?」

「あ、いえ、その、倉庫にあったコタツをバーク様の部屋に運ぼうと……今日は寒いので少しでも温まればと……」


 そこで手が軽くなる。顔をあげると、使用人が板を持ち上げていた。


(あ、あの重い板を片手で軽々と!?)


 驚く私に使用人が軽く笑う。


「私が運びましょう。ミー殿が運んだのでは、一日かけても難しいでしょうから」


 そう言って視線を背後に向けられた。そこには、倉庫のドアとその横に置いたコタツ一式が。

 かなり歩いたつもりだったのに、ほとんど移動していなかった。


 ショックを受けて固まる私の前を使用人が通り過ぎる。そして、机とコタツ用の布団と絨毯をひょいと持ち上げ、私の前にやってきた。


「では、バーク様の部屋へいきましょう」

「あ、ありがとうございます」


 スタスタと歩いていく使用人の後ろを小走りで追いかける。とても、あの重い机と板を持っているとは思えない足取り。


 バーク様の自室に到着すると、使用人はさっさと応接セットを動かしてコタツをセットしてくれた。


「魔石に魔力を補充して熱をもたせましたので。バーク様が帰られる頃には温まっていると思います」

「全部していただいて、ありがとうございます……あの、お名前は?」


 使用人が困ったように笑う。


「使用人Aとお呼びください」

「みなさん、使用人Aと名乗られるのですが……」


 できれば名前で呼びたいのに。なぜか名前を教えてもらえない。


「使用人Aで十分ですから。では、失礼します」


 止める間もなく使用人Aが下がる。私は困りながらも考えた。


「使用人の方々の名前はバーク様にお聞きするとして。温かいお茶の準備と……本からの知識では、コタツにはアレが必須とか。キッチンにあるでしょうか」


 私は準備のためキッチンへ移動した。









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