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【WEB版】婚約者に浮気された令嬢は異国の強面盟主に溺愛される〜呪いで猫になりましたが、毎日モフられています〜【コミカライズ・電子書籍4巻配信中】  作者:
小話・季節ネタ編

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節分・後編

 私はバーク様の私室で傷薬と紅茶の準備をしながら、ふと窓の外を見た。そこには重く垂れ下がる鉛色の雲。


「朝はあんなに晴れていたのに」


 朝は祭りだと喜んでいたバーク様は今、オンル様と使用人の方々から逃げるのに必死。時々、悲鳴に近い叫び声がする。


「このままだと雨が降るかも」


 オンル様も使用人の方々も楽しそうにバーク様を追いかけている。たぶん雨が降っても気づかない。


「今のうちに洗濯物を取り込んでおきましょう」


 私は庭に出て、ほとんど乾いている服とシーツを回収した。それから、屋敷に戻ろうと振り返ったところで。


 ポツン。


 雫が足元の枯れ草を揺らした。


「雨!?」


 私は急いで走った。雨の一粒、二粒くらいなら平気だけど、髪や服に染み込むほど濡れたら……


 走る私を追いかけるように雨が強くなる。


「あと、少し……」


 屋敷の裏口に足を入れたところで。



 ポンッ!



「危ねぇ!」


 猫になった私は洗濯物と一緒に大きな腕に包まれた。


「にゃ?」


 顔をあげると、そこには膝をついたボロボロのバーク様。


「大丈夫か? 一人で出ていったと思ったら洗濯物を取り込んでいたのか」

「にゃ、にゃぁー……」


(私は大丈夫ですけど、バーク様が大丈夫ではないような……)


 頭につけた多数の角? トゲ? はほとんどが折れ、褐色の肌はすり傷だらけ。トラの顔パンツも破れがあり、無傷なのは靴下のみ。

 …………なんでしょう。この姿、なんだか()わぃ……



(いえ、なんでもありません)



 ソッと視線をそらした私と洗濯物を抱えてバーク様が立ち上がる。


「おまえら、もう祭りはいいだろ。豆で壊した壁とか備品は自分たちで直しとけよ」

「「「「「「わかりました」」」」」」


 あっさりスッキリした返事。使用人の方々の顔は晴れ晴れ。まあ、あれだけ暴れ……いえ、鬱憤(うっぷん)をはらし……いえ、いえ。動きまわれば良い運動になったのでしょう。

 バーク様が駆け寄ってきた使用人に洗濯物を渡す。そこへオンル様がやってきた。


「日頃の溜まった不満が多少は解消されたようですね」

「逆にオレは不満が溜まったぞ」

「あなたには毛玉がいるから良いでしょう? 今日は仕事もありませんし、自由にしてください」

「いいのか!? よっしゃ! じゃあ、着替えてくる」


 猫の私と抜け殻になった私の服を持ってバーク様が軽い足取りで私室へ戻った。


「オレも使用人(あいつら)もそこそこ体を動かせて気分転換になったしな。たまには、こういう祭りもいいか」

「にゃ、にゃあ……」


(子どもの頃に絵本で見たセツブンとかなり違うような……)


「ミーは楽しかったか?」

「みゃうにゃう」


(それよりバーク様の傷のほうが気になります)


 私は前足でバーク様の頬をツンツンと触れた。全身かすり傷だらけすぎて、準備した薬の量で足りるか不安になる。

 しかしバーク様は私の前足に頬ずりをしながら恍惚の表情を浮かべた。


「この丸くてフニフニの肉球。この香ばしい匂い。たまらん」

「ぷぎゅにゃ――――――――!!!!!!」


(その格好で変態発言はやめてくださいぃぃぃ!!!!!!)


 前足を引っ込めた私はバーク様の腕から飛び降り、テーブルに準備していた傷薬を(くわ)えた。


「みゃにゃ!」

「お、薬か! さすが、ミー。気が利くな」


 バーク様が傷薬を手に取り、私の頭を撫でる。こうして撫でられるのは気持ちいい。思わず自分から頭をこすりつけてしまう。


 って、そうではなく!


「うにゃにゃんにゃ!」


(早く薬を塗ってください!)


「へい、へい。さっさと塗れってことか。ミーは心配性だな」


 私の訴えを珍しく理解したバーク様が傷薬の蓋を開ける。ホッと一安心した私はバーク様の背中を見た。背筋から分かれて盛り上がる筋肉。ガッシリとした肩から、腕を動かすたびに動く背中。そこから太くも引き締まった腰。


 美術彫刻のような筋肉……だけど!


 私は前足に傷薬をちょんちょんと付けるとバーク様の肩に飛び乗った。


「ど、どうした?」

「にゃー」


 私は肩から手を伸ばして背中に傷薬をつけた。猫の手なので付けられる範囲は狭い。そんな私にバーク様が笑った。


「それなら人に戻ってから塗ってほしいな」


 バーク様が肩にいる私をガッシリと掴み、顔の正面へ移動させる。プラーンとしている私にバーク様が顔を近づけた。


「んにゃにゃ!?」


(ちょっ、待ってくださ!?)


 バーク様の高い鼻が私の鼻に触れる。



 ポンッ!



 私はバーク様の膝の上で人に戻った。もちろん、服はない。


「見ないでくださいぃぃぃ!」


 私は叫ぶと同時にバーク様の頬を思いっきり叩いていた。



「私を人に戻す時は布かシーツに包んでからにしててくださいって、あれほどお願いしていますのに」


 服を着た私は半泣きになりながらバーク様の背中に傷薬を塗った。


「わりぃ、わりぃ。つい、な」

「その言い方は悪いと思っていないでしょう!」


 傷薬を塗り終えた私は薬の容器の蓋をしめた。頬を膨らました私の機嫌をとるようにバーク様が私の顔に触れる。


「猫のミーも、人のミーも可愛いからな。早くどっちの姿も見たいんだ」

「そ、そんなこと言っても騙されません……キャッ」


 顔をそらした私をバーク様が抱き上げて膝にのせる。


「本当だぞ。オレはミーほど大事で可愛い存在を知らない」


 いつも鋭い黄金の瞳が甘く、とろけるように見つめる。滑らかな褐色の肌にかかる、艷やかな紫黒の髪。筋が通った鼻に形がよい唇。

 強面だけど、イケメンな顔が。まっすぐな眼差しが。カッコよすぎてドキドキが止まらない! 止まらないけど!


 私は両手で顔を(おお)って訴えた。


「服を着てください!」


 どんなに甘い言葉を囁かれても、パンツ一丁の靴下姿では半減どころかマイナスです!



 バーク様がようやく私服を着たところでティータイムへ。

 いつもと同じ紅茶のはずなのに、今日は一段と安らぐ。私は紅茶を飲みながら、どうしても気になっていたことをバーク様に訊ねた。


「あの、どうして靴下を履いていたのですか?」

「靴下?」

「オニの姿です。あの格好なら靴下はないほうが良かったのでは、と思いまして」

「特になにも考えてなかったからなぁ。そんなに変だったか?」


 私はそっと視線をそらして答えた。


「……外では絶対にされないほうが良いかと」

「だよなぁ。あんなトゲトゲを被っていたら不審者だよな」

「ゴフッ」


(そっちですか!? 靴下の話をしていたのに!?)


 吹き出しかけた紅茶をなんとか飲み込む。


(どうやらバーク様の服装感覚はズレて……いや、竜族なら普通の感覚なのかも。どちらなのでしょう……)


 悩む私に今度はバーク様が質問をしてきた。


「そういえば、祭りで豆まきと、あと何かやることがなかったか?」

「えっと……年の数だけ豆を食べたら無病息災で過ごせる、という話ですか?」

「それそれ! あとは豆を食べて終わりだな。あ、ちょうどいい」


 バーク様がテーブルの端に置いていた木箱に入った豆に手を伸ばす。


「バーク様! それは……」

「ん?」


 私が止める前にバーク様が豆を掴んで口に放り込んだ。


 パパパン! パン! パパン!


 バーク様の口の中で盛大に豆が弾け、口から煙とともに魂が抜けかける。私は慌ててオンル様を呼びに走った。



 その後。セツブン祭りは禁止となり、バーク様は「なんか、いつもと違うことねぇかなぁ」と言わなくなりました。



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