惚気と忍耐の日常〜バーク視点〜
あれからいろいろあったが結論として、ミーはオレの屋敷で暮らしている。
ミーの呪いは人族の魔法の専門家に視せたが、魔法と様々な念が複雑に絡んでお手上げ。ま、オンルが分析しきれなかった時点で、人族の手に負えないとは予想していたが。
だから、ここでのオレの仕事が終わったら、一緒に竜族の城に帰り魔法の専門家に視てもらうことにした。
それまでミーはこの屋敷に住み込みで、偽造書類がないかの確認と、代筆の仕事をしている。ここまでに通う途中で、雨が降ったり、水に濡れたりして猫にならないか、オレが心配しまくったら、そうなった。
あと、いつ猫になるか分からない状況は、超がつく猫嫌いのミーの母親の気が休まらないらしい。こんなに可愛く癒やされるのに信じられん。
(ま、そのおかげでミーと一緒に暮らせているから良いか)
オレは机の花瓶に飾られたかすみ草を眺めながら、思わず含み笑いをした。膝から可愛らしい欠伸の声がする。
穏やかな時間を堪能していると、オンルが露骨に表情を崩した。
「ニヤニヤと笑って気持ち悪いですね。ちゃんと仕事をしてください」
「いや、ミーが一番好きな花がかすみ草だって、さっき知ってな。ミーらしいだろ?」
「おや? 以前、偽造息子が来た時、バークは毛玉の好きな花はかすみ草って断言していませんでした?」
ミーの元婚約者とかいうヤツが来た時の話か。
思い出して気分が悪くなったが、ふわふわな毛と小さな頭が手のひらに擦り寄る。触れれば、もっと撫でてとばかりにスリスリしてくる。
(もう、これだけで嫌なことすべてが吹っ飛ぶ)
オレは頭やピクピクと動く耳の根元を撫でながら話した。
「あれは、前にミーがバラよりかすみ草を見ていたことがあって、かすみ草が好きなんだろうなぁ、と思って言っただけだ」
「憶測でしたか。本当、そういうところの勘は良いですよね」
オンルが呆れたように書類に視線を落とす。オレは、空いている手で小さな白い花にツンと指で触れた。
「かすみ草。ミーにぴったりだよな。あの小さくってふんわりした雰囲気と同じで。ふわふわっとした白金の髪。かすみ草を集めたように見えないか? それに、あの水色の目。丸くて、かすみ草の花の形にそっくりだ。肌はきめ細やかで、いつまでも触りたいし、穏やかな声はいつまでも聞いていたい」
「はい、はい。惚気はそれぐらいにして、仕事をしてください」
オンルの冷たい態度にオレは口を尖らせた。
「別にミーについて話してもいいだろ? もう、ミーが可愛くて、可愛くてさ。いくら話しても、話し足りないんだよ」
オレの膝で微かに動く気配がする。これぐらいなら軽いし、気になるほどでもない。
「そういえば、ミーは仕事がない時、猫の姿でオレの膝にいるだろ? その理由がさ、オレから離れたくないから、だってさ。もう、外見だけじゃなくて中身も可愛すぎ……」
「ぶにゃぁぁぁぁあ!」
オレの膝から抗議の声があがる。ずっと大人しく撫でられていたミーが顔をあげてオレを睨んだ。
「オレ、変なこと言ったか?」
ミーが顔を近づけ、オレの鼻に鼻をつける。
ポンッ!
軽い音とともにミーが人の姿に戻った。
長い白金の髪が白い素肌を滑り、ガラス玉のようにキラキラ輝く水色の瞳がまっすぐオレを見る。高すぎない鼻に、花弁のような唇。両手にすっぽりと収まる小さな顔。
そこになにも身にまとっていない姿はグッとくる。どこに、とは言わないが。
ミーが涙目のまま、白い頬をほんのりと赤くして叫んだ。
「バーク様のバカ!」
それだけを言うと、オレの口に軽くキスをした。
ポンッ!
再び軽い音とともにミーが猫の姿になる。そして、執務室から駆け出した。
呆然としているオレにオンルが声をかける。
「追わなくていいんですか? あとで拗らせても知らないですからね」
「ハッ! そうだ!」
オレは急いでミーを追いかけた。といっても行き先は見当がついている。
自分の寝室に入ったオレは、ベッドへ歩いた。整えられたベッドの枕元が不自然に盛り上がっている。
「どうした、ミー? オレ、なんか変なこと言ったか?」
するとミーがシーツから顔だけ出した。
「にゃ! うにゃにゃにゃん、にゃ!」
「まずは人に戻ってくれ。猫語はわからんから」
オレはミーの鼻に鼻チューをした。ポンッという軽い音とともにシーツの中に人のミーが現れる。
「さっき言ってたことをもう一回、言ってくれ」
「うー…………あの、あまり私を褒めないでください。褒めるなら……せめて、私のいないところでお願いします。あと、私が言った恥ずかしいことを、他の人に言わないでください」
「褒めるぐらいいいだろ。減るもんじゃないし」
「私の平常心がすり減ります!」
「それを言ったらオレなんて……」
シーツにくっきりと現れたミーの体型。全体的に丸みを帯びながらも、キュッと細くなった腰が豊かな胸と尻を強調する。それに、スラリと伸びた滑らかな手足。素肌はいっさい見えないが、これはこれで逆に艶っぽい。
オレは思わず前屈み気味になりながら、額を手で押さえた。
「ミーが人に戻るたびに、なけなしの理性が削られてるんだぞ」
「なけなしの理性?」
「こういうことだ」
オレはミーの後頭部を掴み、荒く唇を押しつけた。
ポンッ!
どんなに深いキスをしたくても、すぐに猫になる。いや、猫は猫で良い。猫の姿も可愛いし、猫にしかできないこともある。
「キスで猫になるところだけ、早く解呪してくれぇ」
「にゃ! にゃ! にゃ!」
ベッドに伏せて嘆くオレの手をミーが叩く。もう、その肉球が! ぷにぷにが! ご褒美でしかない!
オレは騒ぐミーを抱き上げた。この、ふわっふわっで、もふっもふっの毛が! この小さな温もりが! この愛らしさが! 全身で誘惑する!
「このままだと、オレのなけなしの理性が崩れて、いつ襲うか分からないからな。その前に理性を補充だ」
「ふにゃっ!?」
「吸うぞ!」
オレはミーの腹に顔を埋めようとして。
「ヴニュャァァァアア!!!!!」
顔面を思いっきり引っかかれ、オンルには極悪人面に箔が付いたと言われた。
最後まで読んでいただきありがとうございました(*・ω・)*_ _))ペコリ
よければブックマーク評価☆をポチッとお願いします(人*´∀`)。*゜+
励みになります!(๑•̀ㅂ•́)و✧




