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特技が判明しまして

 そうとなれば動きは早い。オンル様と相談しながら私は両親への手紙を書いた。

 私の字を見ながらオンル様が感心する。


「綺麗な字ですね。これなら代筆の仕事も頼みたいぐらいです」

「そ、そうですか?」

「はい。綺麗な字はそれだけで相手に好印象をもたれますから。かなり練習をされたのですか?」

「練習というか……私は字を見るのが好きで、好きな字を真似して書いていただけです」

「それで、これだけの字を書けるのは素晴らしいですよ」


 滅多に褒められることがない私は恥ずかしくなった。


「そんな、たいしたことではありません」

「バークに字の書き方を教えてほしいぐらいです。あのミミズのような字は解読に苦労しますから」

「なっ!? オ、オレのことはほっとけ!」


 私は猫だった時にバーク様がサインしていた字を思い出した。たしかに癖がある読みにくい字ではあったけど。


「私は好きです。勢いがあって。ただ、読みやすい字にするなら……」


 手紙を書き終えた私は他の紙を出した。ペンにインクをつけて紙にバーク様のサインを書く。


「バーク様は名前のこの字を書く時に、こう上にあがる癖があります。ですので、それをあげずに真横に持っていくだけで、字が引き締まりバランスが良くなります」


 私は説明しながら、もう一度バーク様のサインを書いた。バーク様が覗き込んで喜ぶ。


「すげぇ。たしかに、後から書いたサインの方がカッコいいな」

「バーク様は勢いよく、早く次の字を書こうとされるので、字が崩れやすいのだと思います。なので、少しだけ時間をかけて一文字一文字を意識したら、ずっと綺麗な字になります」

「そうかぁ。やっぱりミーはすごいなぁ」

「そ、そんなことありません」


 顔が赤くなるのを感じて小さく俯く。オンル様に褒められた時よりずっと嬉しい。けど、戸惑いも強い。


「そんな、謙遜するなよ。な、オンルもそう思うだろ? ……オンル?」


 オンル様が紙を見つめたまま動かない。


「おい、どうしたんだよ?」

「……バーク。あなた、このサインを見て、なんとも思わないのですか?」

「ん? オレのサインだろ? よく書けてると思うぞ」


 オンル様が額を押さえて盛大にため息を吐いた。


「頭の中まで筋肉ですか? これ、あなたのサインと瓜二つなんですよ? 偽造どころか本人のサインレベルです」

「けど、オレの魔力がこもってないから違うぞ」

「そんなの魔力がある人にしか分かりません! 魔力がない人が見たら、あなたのサインだと思いますよ」

「あー、たしかにそれぐらい似てるな」

「能天気が過ぎます」


 オンル様はバーク様との会話を諦めて私を見た。


「あなたはどんな字でも似せて書くことができるのですか?」

「あ、ある程度でしたら……バーク様の場合はサインを書くところを見ていたので、ペンの持ち方や書き方の癖も、そのまま書くことができました」


 オンル様がまっすぐ私を見据える。


「しっかり聞いてください。これは、あなたの特技と言える技術です。ここまで似せて書ける人は滅多にいません」

「そんな……」

「謙遜しても、しなくてもいいです。ただ、覚えていてください。あなたの技術は悪用できます。もしくは、悪用される可能性があります」


 私は思わず息を呑んだ。オンル様の目が本気だと訴える。


「あまり人には言わないほうがいいでしょう。世の中には、あなたを上手くいい含め、利用する人もいます。たとえ騙されない自信があったとしても、この特技は使わないようにした方が良いと思います」

「……はい」

「この特技を知っている人は?」

「お父様とお母様ぐらい……」


(そういえば、ジスラン様も……何故かこのことを知っていて、見せてくれとせがまれ、ジスラン様の字を真似て書いたことが……)


 黙った私にオンル様が軽く頷く。


「では、ご両親に他言しないように伝えれば大丈夫でしょう。ただ、その綺麗な字を使わないのは勿体ないので、招待状や礼状などの代筆をしていただけませんか? 仕事として賃金は払います」

「そんな、お金はいりません! 迷惑ばかり、かけているの、に……」

「迷惑なんかじゃないぞ!」


 バーク様の言葉に私は驚いた。女嫌いのバーク様に一番迷惑がかかっているのに。


(あ、バーク様はお優しいから気を使って)


「ありがとうございます」


 私はできるだけ微笑んで礼を言った。なぜかバーク様の顔が真っ赤になっていたけど。



※※



 こうして両親には手紙で無事を知らせ、もう少しこの屋敷で過ごすことになった。

 最初は心配した両親が会いに来ようとしたけど、なにがきっかけで猫になるか分からない以上、迂闊には会えない。私はもう少し記憶が落ち着くまで、待ってほしいとお願いした。


 その間に、なにをしたら猫になるのか、いろいろ実験していく。水や雨、ジュースや酒など冷たい液体がかかると猫になる。人肌以上の温度であれば、どんな液体でも猫にはならない、ということが分かった。

 おかげでお風呂や足湯は入れる。


 あと鼻チュー以外で人に戻る方法がない。私一人で戻れる方法があれば……と必死に探すけど、見つからない。

 しかも、バーク様は自分以外の人と鼻チューをさせない。どうしても、猫の私を他の人に触られたくないらしい。

 バーク様は女嫌いなのに、申し訳なさすぎる。でも、私もいざ他の人と鼻チューが出来るのかと言われたら……


(いけない。今は仕事中なんだから。仕事に集中しないと)


 今は礼状の代筆の仕事中。たまに代筆や書類のサインのチェックの仕事もしている。


 私は書き上げた礼状を持って立ち上がった。同じ部屋で仕事をしているオンル様に渡す。

 内容を確認したオンル様が満足そうに微笑んだ。


「あなたを雇って良かった。私たちが書くよりずっと良い礼状です」

「そ、そんな……」

「そこは、ありがとうございます、と言ったほうが良いですよ。相手の好意を否定することになりますから」

「は、はい」


 そこへ別の机で仕事をしていたバーク様が頷く。


「そうそう。ミーが書く礼状は本当に綺麗だぞ。字だけじゃなくて、文章も。さりげなく季節のこととか、相手へと一言があってさ」

「あ、ありがとうございます」


 バーク様に褒められて胸がくすぐったい。オンル様の時は何か裏があるのでは、とつい疑ってしまう。


(でも、必要とされるのが、こんなに嬉しいなんて。ずっと、ここにいられたら……)


 思いに(ふけ)る私を現実に戻す控えめなノックの音。使用人が入ってきて遠慮気味に私に言った。


「あの、ミランダ様にご面会希望の方がいらしてまして……」

「どなたですか?」


 両親以外に私に会いに来る人が浮かばない。それに、私がここにいることを両親以外で知っている人なんて……


「ジスラン・バルテルミー、と名乗っておられます」


 私は一気に顔が青くなり、足元が崩れた。




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