第9話 華麗に真似よ
マヘンドラの放った雷の魔法。それは雷雲を呼び、相手の頭上に向かって雷を放つというものだった。それを受けて、僕の身体は木っ端みじんにーーーーは、ならなかった。
「ほう、これは・・・!」
シュウウ・・・という雷によって周囲一帯が焼け焦げた時の音が立つと共に、電撃の嵐が止んだ後の土煙から現れたのは、土の鎧で身体を覆った僕の姿だった。
「土魔法ーーー"岩窟の鎧!"」
属性には相性が良いという意味で結びつく属性があるように、相反する相性の属性も存在する。僕は咄嗟に過去に模倣で習得した土属性の、岩で身体をコーティングする魔法を使用したため、マヘンドラの雷属性の大技を相殺できたのであった。
「・・・やはり、そうでなくては面白くありませんな!シン様!やはりあなたは私達の上に立つのに相応しい者です!!」
マヘンドラは再び僕に距離を詰めて剣を振り下ろす。僕もそれに応じて彼の剣の攻撃をガードする。剣だけなら、先ほどマヘンドラの動きの癖などを一通り理解できたため、一応は対応できるようになっていた。
観客席からは、あのマヘンドラ様の電撃に耐えるだなんて・・・や、マヘンドラ様の剣術に対してももう対応できるようになっているだなんて・・・といった声が聞こえるが、そういった賞賛を聞いている時間も、今の僕にはない。
僕はリヤから試合開始前に聞いていたルールを思い出していた。このサークルの中の空間では刃物や弓矢、そして他者に危害を加えることを目的とした攻撃魔法の威力や殺傷力は大幅に落ちる。とどのつまり、どちらかが参ったと言って降参をすれば、この勝負は終わりだということを。つまり、マヘンドラに降参をさせれば、僕の勝ちという訳だ。
どうする。持久戦に持ち込んでマヘンドラを疲弊させようか。・・・いや、さっきから剣での鍔迫り合いをしてるけど、マヘンドラは少しの疲労の色も見せないため、それを狙うのは悪手だろう。だったら、どうするかーーー
(僕の"模倣"の力を、マヘンドラに見せつけるしかない・・・!)
僕は剣を握る力を込めて、思いっきり前に剣を押し出した。マヘンドラも屈強な男ではあるが、ここ一番の獣人の馬鹿力の前には耐えられなかったのか、押し負かすことに成功した。
マヘンドラとの距離を取った僕は、先ほど自分が受けた雷の魔法を思い出す。まずは自分の全身を"帯電"の魔法を使い、雷のオーラで覆う。これで次に僕が使うあの大技で感電しなくて済む。
そして僕は頭の中でイメージを膨らませ、雷雲を呼んだ。星空が見える、晴れ渡っていた夜空は、再び雷雲で覆われる。
「雷魔法ーーーー"轟雷"!!!」
そして僕は、マヘンドラに向かって、極太の電撃を放出した。電撃は迸り、辺り一面を強烈な光で照らす。電撃はしばらくマヘンドラの周辺の一定箇所にとどまり続けた後、消えた。
極太の電撃の中から、マヘンドラが姿を現した。僕と同じく属性の鎧で身体をコーティングしていたのか、そこまで大きなダメージは負っていないようだし、サークルの中に付与された空間魔術も相まって、今放った魔法の威力はだいぶ弱まってはいるが、それでも浅黒い肌に煤のようなものが付いている。彼はもう戦意を喪失しているようだった。
「お、お見事・・・!まさか私の奥義を一回見ただけでマスターしてしまうとは・・・!この勝負は私の負けです、シン様・・・!」
僕はマヘンドラから明確に負けた、という言葉を聞いて、ホッ、と胸をなでおろした。とりあえずは無事に終了したようだ。僕の首が文字通り胴体と分断されるんじゃないかと思ってヒヤヒヤしていたが・・・なんとかはなったようだ。
そして、民衆の方を見ると、僕が最初に獣人としての姿を見せた時以上に熱気を帯びていた。かっこよかったですー!といったような声から、もっと闘っているところを見たい!といったような声まで。僕は少し恥ずかしくなった。
その後、闘いが終わり、リヤが駆け寄り、僕とマヘンドラの手当てをしてくれた。
「シン様、わたしの予言に間違いはなかったでしょう?」
「あ、ああ、うん。まあ、なんというか・・・マヘンドラが手加減してくれるのかと思ったけど、全然そんなことなくて怖かったな・・・」
「何を言いますか!あなた様はやはり予言の子・・・!そんな相手に手を抜くなど、失礼にもほどがあります!」
はは、と僕は笑いながら、リヤに手当てをしてもらう。そして、手当てが終わった僕は、再び宴へと戻った。宴に戻ると、集落の民から色々と好意による質問などもされた。そして、僕は宴が終わった後、リヤと共に家に帰り、再び眠りについた。
ナアト王国。その王宮ーーーー
「ラジェンドラ国王。あの雷雲は・・・・」
「・・・うむ、間違いない。あの雷雲、あの電撃。恐らくはこの王宮の兵士を担っていたマヘンドラによるものだろう」
王の閨の間では、ラジェンドラと呼ばれた王と、その従者が話をしていた。どうやら、シンとマヘンドラの対決は、ナアトの王宮にも伝わっていたらしい。
「・・・あの者達を生かしておいても良いのでしょうか?いずれ王国に力をつけて侵攻してくるのでは・・・」
「・・・奴らにそんな力はないだろう。あやつらが生きているか死んでいるかは関係ない。・・・つまらんことを報告するな」
「はっ・・・申し訳ありません」
従者はラジェンドラにそう告げると、閨の間を後にした。
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