第5話 早速のお仕事
「ふぁ~・・・疲れたぁ・・・」
シンが集落に自己紹介してから5時間後の出来事。シンはくたくたに疲れ切っていた。何故ならば、シンは新たな集落の長に任命され、早速色々な職務を遂行したからである。
この集落に集まっている者は、全員流れ者のようなものだ。この集落に流れてきた理由は個人によって様々だが、大方ナアト王国をシンと同じように何らかの理由で追放されたり、ナアト王国の身分制度に嫌気が差して逃げてきたなどといった理由が挙げられる。
そして、集落にいる人間達は、全員何かしらの魔法が使える。強力な魔法を使える者は、マヘンドラのように集落の警備にあたり、局所的な魔法や、生活に役立つ範囲の魔法を使える者は、農作物を育てるなどといった役割に当たっていた。
そして、シンは、今日は農作物を育てる仕事や、ジャングルに生息する食料となる生き物を狩る作業を一通り協力していたのだった。
今から5時間前。シンはリヤの指示通り、村の食料係であるアーシャという女性の元で、魔術によって農作物を育てるという食糧確保の作業をしていた。
「シン様!本日からお世話になります、集落の食料係を担当しているアーシャと申します!これからシン様には我が集落の食料を確保するために協力して頂きますので、何卒よろしくお願い申し上げます!」
「うん、よろしくね、アーシャ」
アーシャは元気いっぱいの女の子。年齢で言えば、シンやリヤよりも少し高い。17歳くらいだろうか。シンとリヤは肌の色は明るめだが、アーシャの肌は少し浅黒い。というより、ナアト王国をはじめとするチャンドラ大陸周辺の国家に住む人々の肌は浅黒い肌の者が多い。
アーシャに挨拶をした僕は、まずは農作物を育てるという作業から協力をすることになった。ナアト王国の代表的な農作物といったら、米やトウモロコシだ。基本的にはこの二種類が主に栽培されている。
この集落の畑を見せてもらったが、やはり育てられているのは米とトウモロコシ。他には雑穀や豆類なんかもあった。国が管理している畑ではないが、それにしてもよく管理されているな。僕はアーシャに良く手入れされた畑だねと言うと、ありがとうございますと言って喜んでくれた。
さて、畑を褒めたところで、問題はここからだ。このそれなりの広さの作物が実った畑を、今日中に刈り取らなければならない。今現在、集落の民は警備に人員を割かれたり、僕らより年下の若い子達は集落の中にできた小さな学校に勉強をしに行ったりしていて、人手が足りない。
ならばどうするか?魔法を使ってこの畑の作物を一気に刈り取り、回収するしかない。
「シン様は農業に関する魔法の属性はご存知ですか?」
「えーっと・・・確か、水、土、風、そして木だったよね。土で畑の土壌を作って、水でその土壌を潤し、そして風で実った農作物を刈り取る。木で、植物を急速に成長させて、そのサイクルの回転率を上げる」
「そう!その通りです!そして、今現在、畑は豊かに実っている。つまり、風属性の魔法が今は必要だということです!・・・あ、お聞きしたいのですが、シン様の生涯属性は何か教えていただいても良いでしょうか?」
そっか、まだリヤはそこまで説明をしていなかったんだな、と僕は思いながらも、自分の障害属性について説明をした。
するとアーシャは目を見開いて驚き、「それは選ばれし者の属性です」と言ってきた。ただ何かを真似る事しか能のないこの属性に、いったい何の価値があるというのか。それは今の僕にはまだわからなかった。
その後、僕はアーシャと共に畑の作物を収穫する仕事に取り掛かった。まずはアーシャの方から、僕に対して収穫の際に必要となる風属性の魔法を披露してもらう。
「風魔法ー"収穫"!」
アーシャがその風魔法を行使すると、畑の作物がゆっくりと自動的に刈り取られていく。そして、その刈り取られた作物は、彼女が用意した大量の籠にそれぞれ振り分けられていく。
「・・・こんな感じです!さあ、これでシン様も、この風魔法を"見た"ことになりますよね?さあ、シン様も使ってみてください!」
僕はその言葉に応え、アーシャの使った風魔法、収穫を、獣人に変身した状態で使ってみた。僕は人間の形態の時よりも、獣人の形態になった方が魔力の量や、魔法を扱う際の精度が大幅に上がる。
アーシャが使った際はゆっくりと刈り取られていった作物が、僕が使うと、一瞬で全ての農作物が刈り取られ、籠の中にすっぽりと入ってしまった。この集落の畑は比較的大きめで、50坪くらいはあったのに。
ポカンとする僕の元に、アーシャは目を輝かせながら凄いと言って抱き着いてきた。いや、僕としてはただ君の魔法を「模倣して使っただけ」なんだけれども。
その後、全ての農作物を刈り取った状態の畑に、新たに米やトウモロコシの苗を植えて、今度は木属性の魔法で成長を早めるという作業に取り掛かる。
「・・・ふう、これで一通り植えられたかな。」
苗を植える際も、風属性の魔法を使って植える。そうすれば、文字通り腰が折れるような過程を得ずに、畑に作物の苗を一瞬で植えることが出来るのだ。まあ、魔力はその分消費するのだが。
「次はこの植えた苗を、木属性の魔法で成長を早めます!私がまた魔法を使うので見ててくださいね!森林魔法ー"成長"!」
アーシャが次に行使した木属性の魔法、"成長"。それは、農作物や植物の生育を急速に早めるというもの。どれだけ成長が早まるのかという点をアーシャに聞いてみたところ、普段なら何か月もかかるイネ科の植物の成長を、およそ1週間程度で収穫までできるように早めることができるというもの。アーシャが魔法を行使したということは、次は僕の番だ。僕も成長の魔法を使う。
すると、畑に植えられた、まだ苗の状態だった農作物は、一瞬で先ほど刈り取った時のように大きく、たわわに実った状態にまで成長した。
またもやアーシャは目を輝かせ、僕に駆け寄る。・・・そんなにすごい事なのかな?僕はただ模倣をしただけだというのに。
そして、アーシャは、僕がいれば一ヶ月分の食料には困らないと意気込み、この作業を30回ほど繰り返した。そして、魔力を使いすぎて疲れた僕は今現在、リヤの家の自室でまた大の字になって休む今に至る、ということである。
「シン様、お疲れ様です」
リヤは扉をコンコンとノックし、シンの休む部屋へと入ってきた。シンはベッドに大の字になって寝転がっている。
「なんだろう、僕がこれからここの王様なんだよね?・・・なんだか実感が湧かないや・・・」
「ええ。皆さんは本当にシン様を慕っていましたよ。武術の腕もさることながら、農作物を育てる時のノウハウの覚えも早かったと言っていますし、皆さんからの印象もこの上なく良いです。自信を持ってください」
「うん。ありがとうね、リヤ・・・」
リヤからの励ましを受け、僕は大の字の体勢からゆっくりと起き上がる。まだ疲労は残っているが、動けないほどという訳ではない。窓の外を見ると、既に夕日が差していた。もうそろそろ夜になるという時間である。
「シン様!今日はシン様がこの集落の長になった記念として、皆様で宴を開く予定です!さあ、もうすぐ夜になります!広場まで来てください!」
「そっか。ありがとうね。じゃあ、行こうかな」
シンはベッドから起き上がり、リヤと共に広場へと繰り出した。
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