4 サンドラの願い
動きを止めてしまっているコルネリオに代わって、ビアータが聞いた。
「サンドラ、あなたの願いって?」
「ビアータ、サトウキビに決まっているじゃないの」
打って変わって優しい口調だ。
確かに、何度も話し合われたが、サトウキビの使い道は、暗礁に乗り上がったままであった。サトウキビはすでに芽を出し、30センチメートルほどに伸びていた。みんなが納得だ。
サトウキビは、サンドラが学生のときから、この村の発展のために考えていたものだ。しかし、まだこのスピラリニ王国では、浸透していない甘味料なので、この村が襲われてしまうという問題になり、話が止まっていた。
「よくわかんないけど、とりあえず、農機具の報酬だよ」
グラドゥルは、パンパンになっている皮袋をテーブルに置いた。
ビアータは食堂テーブルにグラドゥルを案内して、リリアーナとサンドラは調理場でお湯を沸かしはじめた。
8人がけの食事テーブルは、ここではソファテーブルのかわりだ。アルフレード、ビアータ、ルーデジオ、グラドゥルが座り、事務机から椅子を持ってきた者がアルフレードの後ろで話を聞いている。
「ビアータから、話を聞いています。王都の鍛冶屋さんは、そんなに儲かっているのですか?」
ビアータとアルフレードは、学生の時、農具の開発した。牛に引かせるプラウ(クワの形をしている)、人用のプラウ(つまりクワ)、シャベルや鎌などだ。それを王都の鍛冶屋で開発したのだが、鍛冶屋が売らせてほしいと言ってきた。その時、グラドゥルが間に入り、製造権と販売権を分けた。鍛冶屋は喜んでグラドゥルに販売を任せた。そして、グラドゥルは、その開発者としてビアータとアルフレードに料金の一部を還元してくれているのだ。
「予約金の一部でこれさ。まだ国内を回りきってないんだよね。あ、ここのメンバーの領地には割安にしてるから、安心して」
「俺のところは、そんなことしなくていいからっ!」
ファブリノは生家であるマルデラ男爵家とは数ヶ月前、離縁し絶縁した。ファブリノの言葉に、グラドゥルは、コルネリオが頷くのを確認した。
「了解!まだそっちは行ってないから丁度よかったね」
グラドゥルは、詳しいことは聞かず、軽く受けてくれる。商人としては、割安にしたくないのは本音なので、問題ない。
リリアーナとサンドラがお茶を配った。サンドラはビアータの隣に座った。
「それにしても大金ですね」
ルーデジオは皮袋を見やった。
「そりゃそうさ。プラウは、すごいよね!ここでも大活躍だろう?今日も持ってきたよ。人用もかなり売れてるね。シャベルなんかは、町中でも売れるのさ。鍋とかの雑貨屋に卸しているよ」
「さすがですね」
アルフレードはグラドゥルの商魂に感心していた。
「まあ、そっちは俺の手を離れて商人仲間に任せている。安心してくれ、信用できるヤツだし、会計所は一緒なんだ。小さなギルドみたいなもんだな。俺はそこの幹部だ。台帳はコマメにチェックしていくから、誤魔化しはできないようになっているんだ」
ギルドは主に職業ごと集まりのことなのだが、まだ『会社』という概念がないので、ここでいう『小さなギルド』は会社に近い形だ。会計簿を見れば、入荷数と出荷数がわかるので、入金額もわかるようになっていた。
「そうだわ!」
サンドラの大きな声にみんなが注目した。この村では、ご令嬢であろうと声は大きい。
「ここも小さなギルドにすればいいのよ。今とそんなに変えずに、外を受け入れやすくなるわ」
頭の回転の早いサンドラは人から聞いた知識をすぐに自分たちに転換できる素晴らしい能力がある。
「なるほど、無理に独立させなくても、お給料に変えやすくなるね」
アルフレードもこれからノーリスたちのような者が増えていくと思っている。もちろん、それが、自立するということと、発展していくということだ。
「そうなると、先日の家の料金も、わかりやすくなりますね。少しずついただいていくという形にしやすいです」
「まあ!それなら、お義母さんのおっしゃった心配も少なくなるわね!」
ルーデジオとビアータもサンドラの意見にすぐに賛成した。
クレオリアの言っていた『家のお金は、自立させるなら、とった方がいい』という心配をビアータは気にしていた。クレオリアの言うように、これから増えていく子どもたちの自立の度に無料にするわけにはいかない。それなら、一人目から、少しだけでももらった方がトラブルにならない。村を大きくして、多くの子どもたちを受け入れたいビアータにとっては、辛くともやらなければいけないことだと思っていた。
「おお!それなら、豚ができた時に、売りやすくもなるなっ!」
ファブリノはやりたいことの先が見えて、ウキウキしていた。お金を稼げる手段があることは大切だ。
「ソベルギルド。かっこいいじゃないのっ!」
クレオリアも手放しで喜んでくれた。
「ハッハッハ!ここのメンバーは、前向きで嬉しくなるなっ!やり方や形については、何でも聞いてくれ」
グラドゥルは思いがけない話の展開にとても嬉しくなった。
「ラドにぃ、夜、大人たちで相談があるの。今日は泊まっていける?」
「サンドラのお願いなら何日でもいるさっ!ハッハッハ」
「ラドにぃは、ベルデ棟で寝てくれよなっ!」
コルネリオは、グラドゥルへのヤキモチを隠すつもりがない。それほど、サンドラがグラドゥルを慕っている。
ベルデ棟は、コルネリオとサンドラの家から1番遠い。とはいえ、歩いて5分だが。
「コル、意地悪はなしよ。うちに泊まってもらいましょう」
サンドラは、少し悲しそうにコルネリオを見た。コルネリオはたじろいだ。
「ハッハッハ!サンドラ、ありがとう!でも、飯が近い方がいいなぁ。ギルド設立の話もあるようだし、世話になるよ」
グラドゥルは、しばらくいるそうだし、何かと近い方がいいと言うので、ソル棟の二人部屋を一人で使ってもらうことになった。
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夜になり、アルフレードの家では、会議が開かれた。最近の会議はだいたい、アルフレードたち6人の他、デルフィーノ(ご意見番)、ルーデジオ(金庫番)、ジーノ(畑)、フェリダ(酪農)、セルジョロ(調理)、ラニエル(土木)、チェーザ(建築)、ダリダ(狩り)が主なメンバーで、他の人は会議の内容次第で呼んでいる。
今日は、クレオリア、ベニート夫妻、調理のグレタ、グラドゥルが入っている。
デルフィーノとクレオリア、べニートとロマーナ、ダリダとフェリダは初めてサトウキビを試食したので、目が真ん丸だ。
「なるほど。これを外に出せないと判断したみなさんは、さすがですね。確かにここは乗っ取られていたでしょうね。それに、子供たちに与えなかったのはよかったです。子供たちにこれを我慢させるのは、酷です」
グラドゥルはみんなの判断を笑顔で褒めた。スピラリニ王国では、遠くから輸入している砂糖とはちみつが甘味料となっている。砂糖など、黒砂糖であっても、王族でさえ、年に一度だろう。はちみつであれば、高位貴族なら常備しているだろう。だが、高価なので、調理に使えるほどではない。
「だが、収穫となれば、細い茎ぐらい舐めるヤツはおるだろうよ。それまでにはどうにか決めておかないとな」
畑担当のジーノはそのあたりが心配なのだ。
「今は舐める子はいないのですか?」
「寒くならないと糖分を貯めない植物なの。今はただの草より少し甘い程度よ」
アルフレードの質問に、サンドラが答えて、みんなが納得した。
「セルさんの作ったこれは、黒糖。黒い砂糖です。高級砂糖にするには、サトウキビ水の時点で濾過などが必要なのですが、今はそこまでやる必要はないでしょう」
セルジョロは、サトウキビを仕入れた時、それを煮詰めた物を作り、保管していた。
「ラドにぃ、どうしたらいい?」
サンドラはかなり必死な目だった。
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