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31 お引越し

 ルーデジオとファブリノが王都から戻って来た翌日、ルーデジオの判断で、ビアータたちが戻ってくるのを待たずに、新棟を使うこととなった。今日は大引っ越しが行われる。

 それに伴い、まずは朝食の後、15歳以上の子供たちが旧棟の談話室に集められた。リリアーナが子供たちに説明していく。


「今日はみんなのお引越しがあるのは、朝食で聞いたわよね。そこでみんなにお話があるの。この国では、16歳で結婚できる決まりになっています。それで、もし、希望する人がいて二人とも16歳になっている時には、こちらの旧棟で、二人部屋を使うことにしました。それはどういうことか、わかりますか?」


 キョロキョロとまわりを伺いながら、頬を染めながら頷いていた。


「大丈夫みたいね。どうして、結婚も、そして、旧棟に住むことも、16歳以上って決まりになっていると思う?」


「食べていけないからでしょう?」


 ジャンが手を上げて発言する。みんなもなるほどという顔をする。


「それもあるな。でも、ここにいれば、12歳でも食べては、いけるぞ」


 ファブリノは意見が出ただけでいいと思っていたので、自然に笑顔になった。


「赤ちゃん……だよね」


 ケイトが女子を代表して発言した。こういうことは女子の方が聡い。


「そうね。男と女がそういうことをすると、赤ちゃんができます。赤ちゃんができるのは必ずではないのだけれど、『赤ちゃんができても大丈夫』ということでないと、そういうことをするのは、よくないのよ」


「じゃあ、二人が赤ちゃんができてもいいって思えばいい?」


 ウルバの質問は思春期の子なら男女問わず考えることだろう。


「気持ちだけではなく、体も『赤ちゃんができてもいい』って体になっていないとダメなのよ。赤ちゃんを産むというのは、女の人にとっていつでも命をかけておこなうすごいことです。女の人がその体の準備ができるのは、16歳になってからなのよ」


「もし、その前に赤ちゃんができちゃったら?」


 メリナが不安そうな女子を代表して聞いた。


「お母さんになる体にとても大きな負担になって、お母さんも赤ちゃんも命を亡くす可能性がとても強くなるわ」


 リリアーナの答えに、みんなが青ざめた。


「だから、結婚を16歳って決めることで、そういうことをするのは、男の子も女の子も16歳になってからにしなさいってことなの」


 みんなの反応をみて、わかってくれたのだと思われた。性に関する教育を、貴族なら、メイドや家庭教師から、特に女の子は散々習うのだが、平民は受けていない。だから望まぬ出産が増え、孤児がいなくならないのだ。


「まだ不安やわからないこともあると思うのね。そういう時は、女の子は私に、男の子はファブリノに相談してちょうだい」


 みんながファブリノを見ると、ファブリノが親指を立てて、オッケーという意思を伝える。


「ただし、こちらを恋人として使えるのは、2年間とします。それまでに、結婚するのか、ここではないところで恋人として過ごすのか、お別れするのかを決めてください」


 みんなが、ビクッとした。ファブリノが空かさずフォローに入る。


「『ここではないところ』っていうのは、この建物ではないところという意味だよ。新棟に移るとか新しく家を建てて生活するとか、それは自由だ。ここの仕事を辞めろという話ではないから、間違えるなよ。別れることを決めたとしても同じだぞ。ここでの仕事はなくならない。わかったか?」


 みんなが、ホッとしたような顔で頷いた。


「お話はここまでなんだけど、お昼までにそれぞれ話をしてほしいの。ここを使ってくれて構わないわ。私達もここに残るから何でも相談してちょうだい」


 数組の子たちが残った。

 ウルバがファブリノに話かける。


「俺、カーラと、そのぉ…」


「そっか、でもカーラはまだ14歳だな。ここにはまだ住めない。でも、カーラが16歳になったら、こっちに移ろうなって話をしてやれよ。きっとカーラは喜ぶぞ」


「そ、そうかな?喜んで、く、くれるかな?」


 ウルバは照れよりも不安が大きそうだった。


「もし、喜んでもらえなかったら、カーラが16歳になるまでに、ここにウルバと住みたいなって思ってもらえるように頑張ればいいだけだろう?それとも、カーラを諦めるのか?」


 ファブリノはニコニコしてウルバをからかい半分励まし半分で話をした。


「なっ、それはないっ!」


 ウルバは本気でとって少し怒った。


「フッ、ハッハッハ!そんなに好きなんだって、伝えろよ。でもな…」


 ファブリノはウルバの肩を抱き、声を潜めてウルバに話した。


「さっきのリリーの話、わかったか?」


 ウルバが小さく頷いた。


「ウルバが我慢することが、男として、カーラを守るってことになるんだぞ。カーラとずっと一緒にいるために、もう少しだけ、待ってやってくれ、な」


 ウルバが大きく頷いた。



 リリアーナのところには、テオとバレリアが、相談に来ていた。


「そっかあ、バレリアは、あと3ヶ月で16歳になるのね」


 バレリアが頷く。


「だから、ちょっと早いのはわかっているんだけど…」


 テオがバレリアの手をギュッとにぎった。


「うん、でも、許可はできない。だけど、今回のお引越しは、二人はしないってことにするわ。たった3ヶ月のために、今日、お引越しするのは面倒くさいでしょう?」


 テオとバレリアは、ニコニコと冗談のようにいうリリアーナを見た。


「3ヶ月後、すぐにお引越しできるように、お部屋の整理をしておくのよ。いい?」


「「うん!!」」


〰️ 


 今回の引っ越しで、旧棟を使うことになったのは、ジャンとメリナ、ノーリスとケイト、二組だった。リリアーナは、女の子の体についてもお話できたし、とっても満足していた。思春期になる男の子と女の子がこれだけ多くともに生活しているのだ。こういう話は大切だ。それでもいつかは、幼くして身籠る子がでてきてしまうだろう。

 『その時は、全力で応援してあげるだけだ。ただし、それを子供たちに言うわけにはいかないけれど…』リリアーナは、そう決心して、子供たちを見ていた。


 旧棟には、セルジョロ夫婦、チェーザ、コジモ、リリアーナ、ファブリノ、ジャン組、ノーリス組が住むことになった。


 新棟は、本館から歩いて3分ほどにある。一階には、管理夫婦の住む部屋と談話室と、小さな調理場、一人用の個室が16部屋。二階には、管理夫婦部屋と小さな談話室と一人用の個室が20部屋。一階を男の子専用、二階を女の子専用として、13歳から使えることにした。管理夫婦部屋には、ジーノ夫婦とラニエル夫婦が住む。食事は本館ですることになっている。


「あくまでも、希望者だよ。13歳だからって、あちらに行く必要もない」


 ルーデジオの言葉で、多くの13歳は、本館に残ることを希望した。本館は4人部屋か二人部屋である。まだ一人部屋は怖いということらしい。14歳以上の子供たちはみんな移ったので、新棟はかなり埋まった。


 昨日来たばかりの子供たちの部屋も決めて、お兄さんお姉さんたちのお引越しをみんなが手伝えば、あっという間に終わり、午後からのお勉強には、差し障りもなかった。


〰️ 


 リリアーナは、勉強時間をファブリノに任せて、昨日来た子の中でも少し他の子と違う女の子を旧棟の二人部屋に呼んでいた。旧棟の二人部屋は、二段ベッドではなく、ベッドが二つ並んでいて、少し広めになっている。


「ごめんね、服を脱いてもらっていいかしら?」


 女の子フランカは、ワンピースを脱いで下着姿になった。腕、足には青あざがある。下着をめくれば、お腹や背中にもあった。さらに、痩せ細っていた。フランカは14歳だと本人は言っている。ここに来るには遅い年齢だ。ファーゴ子爵領の領都で保護されたばかりなのだ。売春宿の前で掃除をしていたところをファーゴ子爵が見つけた。この国では、売春宿で働けるのは16歳からとなっている。それが掃除婦や使用人であったとしても、だ。


「孤児院に行ったことはある?」


 リリアーナは、フランカに服を着せながら聞いた。


「遠くの孤児院にいたの。お仕事だって言われて、あそこにいたの」


「これは誰にやられたの?」


 『これ』と何を示したわけではないが、フランカにもすぐに青あざのことだとわかった。


「親方よ。私が失敗したら罰を受けなきゃダメでしょう?ここにいることも親方に見つかったら殴られるわ。早く帰らないと」


 不安そうにそう言うフランカに対して、リリアーナはびっくりして目を少し見開いた。そして悲しげな顔でフランカを抱きしめた。フランカはビックっとした。フランカの強張りがなくなったのを確認してリリアーナは手を離した。


「もう、あそこには、帰らなくていいのよ。ファーゴ子爵領主様がお話をしてくださったのですって」


 リリアーナはフランカの目を見て、ゆっくりと話す。


「え!そうなの?で、でも、ご飯が食べられなくなっちゃうわ」


 フランカはリリアーナにすがりついた。


「フランカ、ここはね、大きな子供たちの孤児院なの。わかる?」


 フランカは、ファーゴ子爵に助けられて、その翌日が、ここに来る日だったので、何の説明も受けていなかった。なので、ここまで数日、一言も喋らなかったのだ。


「フランカは、14歳だから、新棟へ行ってもいい年齢なのだけど、ここへ来たばかりだから、半年間は、本館でここの生活に慣れてもらうわ。いいかしら?」


「ご飯は食べられる?」


 上目遣いで必死にすがるフランカ。


「もちろんよ。その代わり、お仕事とお勉強をしなくちゃいけないの。孤児院と同じでしょう?」


「え!」


 フランカは縋っていた手を離して呆然とした。


「どうしたの?」


 フランカの様子が変わったことに、リリアーナは漠然と心配になり、今度はリリアーナがフランカの腕を掴んだ。


「お、お仕事、失敗したら、どうしよう…。わ、私、お仕事が上手じゃないの。それに、お勉強も上手にできないわ。ああ、なのにご飯を食べてしまったわ。どうしよう、どうしよう」


 フランカがポロポロと泣き出してオロオロする。リリアーナは、掴んでいた手を引いて、優しく抱きしめた。


「ここでは、何も上手にやる必要はないのよ。お仕事もお勉強もよ。ただ、懸命にやればいいだけよ。一生懸命やれば、上手じゃなくても、誰も怒ったりしないわ。大丈夫よ」


 リリアーナは、抱きしめたまま、フランカの背中を優しく撫で続けた。


 しばらく待つと、フランカが泣き止んだ。


「フランカ、小さな女の子たちと同じお部屋で寝れる?私と同じお部屋にする?」


 フランカは、少し悩んでいた。そして、モジモジしながら、言った。


「ちょっとだけ、ちょっとだけお姉ちゃんと寝てもいい?」


「もちろんよ。じゃあ、フランカのお部屋はしばらく、ここにしましょうね」

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