26 次兄は協力者
5人は学園に戻ってきたときは少しの間、放心状態だった。
ビアータとアルフレードは、学園長が心配して『成績にはならないが、実力を知りたい。』と言ったので、1学期の期末テストを受けた。二人ともCクラスに問題なしと合格をもらえた。ビアータとアルフレードは、送ってもらった教科書で、毎日昼の2時間と夜の2時間を勉強の時間にしていたのだ。
「コルネリオ、俺達も移動馬車の中に教科書とノート持ち込むぞ!」
「ああ!そうしよう!」
ファブリノとコルネリオは買い付けをとても張り切っていた。
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買い付けまでの期間、コルネリオとファブリノは、アルフレードの指導で弓の練習をしたし、サンドラはサトウキビの勉強している。時間がいくらあっても足りないとばかりに、みんなが精力的に動いていた。サンドラは、あんなに怖がっていた辻馬車にも一人で乗れるようになり、王立図書館へ何度も出かけていた。だが、心配でしょうがないコルネリオは、拝み倒して、『3時には帰ってくる』ことをサンドラに約束してもらった。
ビアータは、農機具の工夫を考えて、鍛冶屋へ何度も行って、試作品を作ってもらい、数度目で納得するプラウを人用にした物つまり鉄製鍬を作ってもらえた。ルーデジオと手紙で話をして、牛用プラウ2つと鉄製鍬と鉄製シャベル、鉄製鎌を各20本ずつ注文した。
「お前さんたちの注文はいくらでもやってやる。だから、この牛の鍬、プラウってやつを売らせてくれねぇか?」
鍛冶屋の主人からの申し出にビアータは驚いた。
制作販売権は、とてもおいしい話である。ビアータは、サンドラたちにも相談したし、ルーデジオにも相談の手紙を書いた。結果、ビアータたちは販路も何もないので、これから無料でいろいろと頼むことで、納得することにした。今回の大量注文も無料でやってくれると言う。
しかし、これに飛びついたのは、グラドゥルで、すぐさま王都に来て、制作権と販売権を別にし、販売を請け負った。鍛冶屋としても、売れれば、グラドゥルだろうが誰だろうが構わないので、すべて丸く収まった。制作権利や販売権利を国に申請するなど、鍛冶屋には考えつかなかったであろうことをグラドゥルがやってくれたので、鍛冶屋としては、万々歳であった。
さらに、鉄製鍬と鉄製シャベル、鉄製鎌についても同様に契約したので、武器屋は、人を増やす計画も立て始めたほどであった。
そして、それは当たり、2年後には、鍛冶屋はてんてこ舞いになるほど、儲けることになる。
「儲けがでたら、『ビアータの家』に回すよ。楽しみにしててね!」
コルネリオの次兄グラドゥルは、いつの間にか、『ビアータの家』の協力者になっていた。
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11月1日、男の子1人女の子1人と一緒に、3人とグラドゥルは旅立った。ビアータとアルフレードは、馬車の姿が見えなくなるまで、いつまでも門の前から離れなかった。
「はぁ、見送るって、こんなに複雑な気持ちになるのね。もどかしいわ」
ビアータは馬車に手を振りながらつぶやいていた。
「だろ。僕が見たこの風景の馬車に乗っていたのは、君なんだよ。どんなに悲しかったか」
アルフレードも手を振りながら、回想して意見した。
「悲しんでくれていたの?」
ビアータは手を引っ込めてアルフレードの腕に手をかけてアルフレードを仰ぎ見た。
「あっ!」
その頃、色気のある話など、微塵もしていなかったはずである。アルフレードは、顔を赤くて、モジモジしていた。
「アル、嬉しい…」
ビアータは、アルフレードの手をとって、アルフレードを見つめた。アルフレードは、さらに赤くなり、ビアータ手を握りかえした。そして、二人は手を繋いだまま、自然に温室へと足が向いた。
二人が学園内で手を繋いでいる姿をそこここで見られるようになった。二人にとって違和感を感じていなかったが、まわり、とくに3年Cクラスのみんなにとっては、やっとそうなったかと、ホッとさせる姿であったことに、二人は気がついていなかった。
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12月のテストは、二人ともなかなかの好成績であった。特にアルフレードは、学園長からBクラスへの編入できると言われたが、コルネリオとファブリノを待っていたいので、Cクラスに留まることを即決した。
これで、3学期はどんな点数であっても卒業できる。
2つの孤児院を巡って忙しく冬休みを過ごしていた二人だが、新年の王城でのパーティーのため、べニートが5日ほど王城に泊まり込みになったと聞き、年末年始をべニートたちのアパートで過ごすことにした。
ロマーナは、とても喜んでくれて、ご馳走を用意してくれた。
「これを見たら、兄さんは悔しがるだろうな」
アルフレードは美味しそうな料理を前に目をキラキラさせていた。
「大げさねぇ、ふふ」
「いえ、きっとヤキモチ焼きますよ。お義姉様のお料理は、お兄様の自慢ですもの!ふふふ」
ビアータも料理に釘付けだ。
和やかに時間は過ぎていった。
食事も済み、お茶が出てきた。そして、ロマーナがゆっくりと話出した。
「あのね、二人は気がついているだろうけど、私、孤児院出身なの」
ロマーナの両親を紹介されないこと、ロマーナの出身地の話をしないこと、ロマーナは小さい頃の話をしたがらないことなどから、そうではないかと、二人は予想ができていた。
「だからね、二人がやってることが、どれだけすごいことなのか、とてもよくわかっているの」
アルフレードもビアータも頷くことしかできない。
「小さい頃、仕事を見つけるのは本当に大変だったわ。何度も仕事を変えて、何度も浮浪孤児になったわ。たまたまパン屋さんの女将さんに拾われた日が、パン屋さんで働いていた人がお嫁に行った日だったの。パン屋さんで働きながら、計算や読むだけでなく、書くことも覚えて、小物屋さんへ仕事を決めたの」
「どうして、パン屋さんを辞められたのですか?」
ビアータはロマーナから目を逸らさない。
「パン屋さんは、とてもいいお仕事先だったから、次の孤児院の女の子に譲ったのよ。住み込みで、お小遣いもくれて、読み書き計算も教えてくれる。そんなお仕事、他にないでしょう」
ロマーナは、ビアータの質問に淀みなく、優しい口調で答えた。
「パン屋さんは、確か世話役さんだったよね。すごいね。平民の中でもやってくれる人がいるんだね。すごい人達だ」
アルフレードもロマーナの話を聞き逃すまいとまっすぐにロマーナを見ていた。
「ええ、そうなの。素晴らしい人達よ。私が、べニートを信じられるのは、パン屋さんのお父さんのお陰だって思っているわ。それまでは、男の人が怖くて怖くてしかたなかったから」
ロマーナが少し視線を落とした。
「っ!お義姉様…」
「ビアータちゃん、そんなに辛いことはされてないのよ。男の人に何度か引き込まれそうになっただけ。私より酷い目に会った子はたくさんいるもの」
ビアータは、先日のパーティーで酔っ払いの男性に絡まれたことを思い出した。声を出せば誰かが助けてくれただろう、あの場所でさえ、あんなに怖かったのだ。ロマーナが体験したことは、どれだけ恐ろしいことであろうか。しかもそれを『辛いことはされてない』という。現実にされた子たちのことを思うと、ビアータは、自然に涙が出た。
アルフレードが、ビアータの肩を優しく抱く。
「ビアータちゃん、ありがとう。もう、ごめんね、こんな悲しい話にするつもりはなかったの」
「だい、だいじょぉぶです」
ビアータが少し鼻をすすりながら答えた。
「でね、この話はもちろんべニートは知っているのよ。その上で私を受け入れてくれたの。べニートと知り合って、アル君とビアータちゃんがすごいことをやってることも知ったわ」
ロマーナは頭を上げた。アルフレードとビアータの目を交互に見る。
「それでね、 それで、私、あなた達を手伝いたいの!私、特別なことは、何もできないのだけど、でも、何か、何でもいいの、できることはあるかしら?」
「本当に?」
「ええ、本気よ!べニートも賛成してくれているわ。だけど、べニートは責任ある立場になっているでしょう。すぐにあちらに行くことはできないわ」
「それはもちろんです!でも、いいのかな?兄さんにとって、副隊長は夢の途中のはずなのに…」
アルフレードは自分のためにべニートが夢を捨てるのではないかと少し渋い顔をした。
「ふふ、よく知ってるのね。でもね、べニートは『アルは俺よりデカイ夢を見つけた』って喜んでいたわ。そして、『俺は俺しか見てない夢が恥ずかしい』って。だから、べニートと私にも、アル君とビアータちゃんの夢、一緒に見せてくれない?」
「お義姉様!!」
ビアータは立ち上がって、座っているロマーナを後ろから抱きしめた。
「ビアータちゃん、私の弟妹たちを助けてくれてありがとう。貴族であるあなた達が私達みたいな孤児に手を差し伸べてくれるなんて、奇跡を見ているみたいだわ」
ロマーナはビアータの手を撫でながら泣いていた。
「私ができることなんて、ほんの少しで…」
ビアータはロマーナの肩に額を当てた。
「少しを最初に始めたことがすごいんじゃない。あなたは素晴らしいわ」
「義姉さん、僕らは春にはあちらへ行きます。兄さん義姉さんのタイミングでいいんです。いつでもいらしてください。とっても嬉しいし、とっても助かります!」
アルフレードが笑顔で頭を下げた。
「うん!ありがとう!べニートと話を進めるわね」
アルフレードとビアータは、とつも心強い協力者をまた得られた。
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コルネリオとファブリノに負けじと、弓の練習をしてるジャンたちは、ルーデジオとチェーザに伴ってもらい、何度かうさぎ狩りに行っており、ジャンたちもうさぎを狩ることができていた。さらに、ジャンとウルバはうさぎの内臓処理もできるようになった。
小さな子供たちにやり方を教えてくれとせがまれるが、狩り組は狩り参加した者にしか、絶対に教えなかった。トラウマになるに決まっているのだから。
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