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25 次兄のお仕事

 ビアータたちは、王都への帰り道の2日目の夜、ノリニティ伯爵州ファーゴ子爵領の領主邸、つまり、コルネリオの実家に泊まることになっていた。サンドラたちは、行きも泊まらせてもらっているし、どうやらサンドラは、ファーゴ子爵夫人のお気に入りだ。なので、コルネリオの両親はコルネリオがどこへ行ったかは知っているし、コルネリオからの手紙で、何をしてきたかも知っていた。


「みなさん、お疲れでしょう。どうぞ、お上がりになって」


「みんなさん、夕食まで時間があります。よかったら、サロンで、お茶でも。コルネの兄も帰国してましてね、よかったら、お話でもしませんか?」


 ファーゴ子爵夫妻は、みんなを大歓迎した。

 荷物を置いて、サロンへ集合する。


「狭い家なので、個室でなくてごめんなさいね」


 ビアータとサンドラ、アルフレードとファブリノが同室で、デルフィーノが個室であった。デルフィーノは、同格の子爵領主だ。当然だ。


「いやいや、宿をお貸し願えるだけでも、充分ですよ。」


 代表してデルフィーノがお礼を述べれば、みんなが丁寧に頭を下げた。


「それにしても、ルケッティ子爵殿の活躍は、コルネからの手紙でびっくりすることばかりでした。コルネがこんなに逞しくなったのも、ルケッティ子爵殿のご指導あってこそでしょう。ありがとうございます」


「いやいや、私などただの手伝いですよ。子供らのやる気あってこそです。コルも、自分にできないことも最後までできるように頑張っていて、あういう姿を年下に見せられたのは実に良い事ですな」


 デルフィーノが笑顔で褒めてくれたことにコルネリオが照れていた。


「まあ、コルネがそんなに頑張り屋さんだったなんて、知らなかったわ。男の子なのねぇ。ひと夏で急に大人びてしまって…」


 ファーゴ子爵夫人が嬉しそうにコルネリオを見ていた。


「それが、子供の成長というものだろう。あ、そうだ、これは次男のグラドゥルです。商人のマネごとをしておりましてな。

ラド、ちょうどいいところに来たな。そちらで、この前の話をコルネたちにしてやるといい。

コルネ、この前の手紙で相談された件をラドに相談してみなさい」


 ファーゴ子爵に呼ばれて、美形の男性が入ってきた。



「ルケッティ子爵殿、応接室に参りましょう!うまいワインがあるのですよ!」


「おお、それは楽しみですなっ!」


 ファーゴ子爵夫妻とデルフィーノは、応接室へと行ってしまった。



 美形の男性がアルフレードたちの近くに来た。


「ラドにぃ、いつスピラリニ王国に帰ってきたの?」


 コルネリオは挨拶より先に質問した。グラドゥルの帰国は先日父親から聞いていたが、やっと会えたのだ。


「先週だよ。それで、こちらが、お前の手紙のみなさんかな?はじめまして、コルネリオの二番目の兄グラドゥルです。ラドさんでいいからね!よろしく!」


 軽いノリのグラドゥルにびっくり気味だが、みんな自己紹介をした。


「君がサンドラちゃんかぁ!コルネ!ずいぶんと可愛い子を口説いているじゃないかぁ!こりゃ落とすにはそれなりのプレゼントが必要だぞぉ」


 グラドゥルは、ニヤリとコルネリオを見やった。


「サンドラは、そういう子じゃないんだよっ!プレゼントで落ちるなら、どんなに楽か…」


 コルネリオの愚痴に、サンドラの視線が泳ぐ。


「ばっかだなぁ。プレゼントっていうのは、金ばかりじゃないんだよ。

お前が、父上にあてた手紙を読んだよ。父上もそのつもりで、俺に見せたんだろうけどね」


「もしかして、儲けの出る植物のこと?」


 コルネリオは自分の手紙を思い出して、目を見開いてグラドゥルに詰問した。


「大正解!」


「「「そんなのあるんですかっ!」」」


「ああ、それも、暑くてそれでいて雨が、適度に降る地域でしか育たない。貴重品の取れる植物だ!」


 グラドゥルが自慢するように答えを少し隠す。


「お砂糖?」


「サンドラちゃん!最高!」


 グラドゥルは、サンドラの答えに手を叩いて喜んだ。


「お砂糖って、鉱物じゃないの?」

 

 ビアータが、こう言ってしまうくらい、砂糖は貴重品であった。


「塩は鉱物である物もあるわね。お砂糖は、植物のエキスを煮詰めて乾かしたものよ。」


 サンドラが的確に答える。

 砂糖はとても高価で、高位貴族ですら、時々しか手に入れられない。貴族が主に使う甘味は、蜂蜜である。それですら、子爵家や男爵家では、年に数度の高級品である。ちなみに、ジャムは、ただフルーツを煮詰めただけであるので、フルーツの甘みだけだ。


「わぉ!サンドラちゃんって本当に天才なんだね。今まで勉強してないことだろう?」


 グラドゥルはサンドラの優秀さに興奮気味だ。


「いえ、あの土地の気候に合いそうかなって、考えていたので。それで、サトウキビの茎はどこで手に入るのですか?」


 サンドラは、誰にも相談していないが、サトウキビの栽培を決めたようだ。


「もう、答えが出ちゃったかぁ。サンドラちゃんは、すごいね。そこは、ここからだと、船を入れて順調にいって、2週間ってとこかな?」


「私、そこへ、行きます!行き方を教えてください!」


 サンドラはグラドゥルに掴みかかりそうな勢いだ。


「女の子には無理だ。女の子が乗るような船を探していたら、半年先になるよ。それに、サンドラちゃんはまだ学生だろう?だから、俺が買い付けてきてあげる。他の仕事もあるから、帰って来るのは半年ほど先になるかな」


「ラドにぃ、それなら僕を連れて行ってくれ。僕は、買い付けたら帰ってくる。それなら一月半で帰ってこれるだろう?」


 コルネリオは、どんなものかもわからないものだが、サンドラの意見を尊重していたので、戸惑いはなかった。


「だから、学園はどうするんだ?」


「Cクラスは、4か月休みが取れるんだよ。さっき、学園からの手紙でCクラスの得点に足りていたし、大丈夫だ」


 コルネリオは真剣な顔でグラドゥルを説得しようとしていた。


「なら、僕も行く!」


 当然のようにアルフレードが名乗りをあげる。


「アルはダメだ。4か月を超えちゃうだろう!4か月越えたら、クラスの降格じゃなくて、落第で3年生をやり直しだよ。それはダメだよ!」


「なら、俺ならいいな。アルほどじゃないけど、コルよりは、剣は強いぞ」


 ファブリノは少し自慢げに鼻を上げた。


「コルネ、本気なんだな?そうか、4か月かぁ。でも、2学期のテストを受けなかったら、どうなるんだ?」


「3学期のテストを受ければ大丈夫です。私とアルは、1学期のテストを受けていないので、2学期と3学期のテストは受けなければなりません」


 ビアータがコルネリオの話の補足をした。


「なるほど、ちょっと待っててくれ」


 グラドゥルは、部屋を出て行ったが、すぐにノートを持って帰ってきた。


「どうやら、サトウキビは、1月くらいに植えるといいらしい。お前たちの休みを余裕を持って、3ヶ月と考えて、11月に連れて行ってやる。後一月半、学園で勉強してこい。俺もその間、国内で仕事をしているさ。な、父上母上に心配させないためにもそうしろ。俺から説明しておくから」


 グラドゥルの言葉にコルネリオも頷く。


「なら、私も11月から学園を休んで畑の準備をして待っているわ!」


「お前の姫さんが、こう言っているんだ。11月になったら、ここへ戻ってこい。11月5日に出発しよう」


「ラドにぃ!本当に、ありがとう!」


 コルネリオはグラドゥルの手をとって、両手でブンブンと振った。


「それにしても、学園にそんなシステムがあったとは、知らなかったよ。もっと遊べたなぁ」


 コルネリオから手を離したグラドゥルは両手を後頭部に当てて、天井を見上げた。

 

「母上から、ラドにぃは遊びすぎて、商人になってしまったって聞いているよ。ハハハ」


 コルネリオの話にみんなが想像できるとばかりに笑った。


「それは言いがかりだな。遊んでなくても商人になったさ。ここでは、俺の居場所はないからね。たまに帰ってくるからいいのさ。コルネ、お前はもう居場所らしきところを見つけたみたいだな。あんな楽しそうな手紙、初めて読んだよ。いつか俺もそこへ行ってみたいな」


「是非、来てください。ラドさんの話を聞けたら、商人になりたい子供もいるかもしれません!」


 アルフレードが身を乗り出して喜んだ。


「そうかい?じゃあ、コルネがちゃんとサンドラちゃんを口説けたら、行かせてもらうよ。ハハハ!」


 いきなりのパンチに、サンドラは成すすべなく、真っ赤になった。


〰️ 〰️ 〰️


 王都に戻ってすぐ、アルフレードは、ビアータと一緒にべニートとロマーナの家へ行った。べニートもロマーナも久しぶりに会った二人を快く受け入れてくれた。


「二人とも気持ちいいほど、小麦色だな!それに、随分と逞しくなったもんだ」


 べニートはアルフレードの肩を抱いて胸板を叩いた。


「ああ、川を掘ったり、畑を耕したり、毎日とても充実してたよ」


「親父は元気だったか?」


「はい!とっても博識で行動力もあって、ステキなお義父様でした!お義父様のおかげでいろいろと順調なんですよ!」


「ふふふ、ビアータちゃんはすっかりお義父様ファンね」


 ロマーナも嬉しそうに笑った。


「はい!」


「ところで、兄さん、本当に申し訳ないけど、兄さんたちの結婚式に出られなくなったんだ。休暇可能期間が足りなくてさ」


「ああ、そのことだがな、隣国ピッツォーネ王国から、公爵令息たちが突然学園に留学にいらっしゃってな、いつ警備や護衛が必要になるかわからないから、王都を離れられなくなったんだ。彼らがお戻りになられてからでないと領地には行けないな。だから、結婚式は、未定なんだよ」


「それは、大変ですね。学園に留学ですか」


「二人はクラスも違うし、春休みから学園にいなかったから、知らないのね。麗しい人達だって噂よ」


「う、麗しい??」


 聞き慣れない言葉にアルフレードは詰まった。


「そんな心配するなっ!ハッハッハ、お前みたいなやつにプロポーズするくらいだ。ビアータちゃんの好みじゃないさっ!」


 べニートは、アルフレードの胸板をバシバシと叩いた。アルフレードがべニートを振り払う。


「ふふふ、お兄様、よくご存知ですわね」


 ビアータが腕を伸ばし、アルフレードの腕に絡ませて、顔を『コテン』と、アルフレードの肩……には、乗らないので、アルフレードの腕に頭を沿えた。


「え、いや、まあ、アハハ、とにかく、兄さんたちが幸せそうでよかったよ」


 真っ赤な顔のアルフレードがそう言った。

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