24 再挑戦
どんなに忙しくやりたいことだらけでも、ビアータたちの夏休みは、もうすぐ終わる。その前に、ある四人には大イベントが待っていた。
コルネリオは、アルフレードに聞いた小川の脇の丸太にサンドラを誘った。
「サンドラ、僕、来年もまたここに来たいんだ。君と一緒に……」
コルネリオはサンドラに縋るような視線を送る。
「コル、それはズルいわ。それじゃあ私に『ノー』という権利がないじゃないの」
サンドラは困った顔をしていたが、怒ってはいないようだ。
「うん、そうだよ。サンドラは僕と幸せになるんだよ。僕のせいにしてしまえばいいのさ。いい考えでしょう?」
コルネリオはサンドラに提案という告白をした。
「そうね。いい考えかどうか見極めるから、あと半年一緒に研究しましょうね」
サンドラは、コルネリオが率直な告白でなかったことにホッとしていた。まだ、自分の気持ちは測りかねている。だって、こんな気持ちになったことがないのだから。でも、それってことは…………。
そんなことには気が付かないコルネリオは、また半年頑張ろうと心に決めた。
ファブリノは、庭先のテーブルにリリアーナを誘った。
「ここでのバーベキュー、楽しかったな」
ファブリノは、応援してくれている子供たちの顔を思い出していた。
「ええ、あんなに大人数で外で食べるなんて最高ね」
リリアーナは、関係のない話でも真面目に答えてくれる。
「リリアーナさん、俺の気持ちはこの夏変わらなかったよ。リリアーナさんのことは素敵な人だと思うし、リリアーナさんともっと二人でいたいなって思った」
ファブリノは、リリアーナから視線を外さない。リリアーナは、その視線から逃げたくなった。だって、自分に自信がないのだ。
「ありがとう。でも、リノ君はまだ若いもの。決める必要なんてないのよ。いろいろなものを見てから決めた方がいいわ」
学園にはキレイにしたご令嬢たちが沢山いるはずだ。ビアータのようなご令嬢はマレに決まっている。『そんなご令嬢に比べたら、私なんて忘れられて当然だ』リリアーナはそう思っている。
「ここより多くのことを見られて勉強できるところなんてないと思うけど!」
少し強めの口調のファブリノにリリアーナは戸惑った。
「じゃあ、半年。半年を過ぎたら、また聞くわ。学園へ戻ってもう一度考えてみて。それでいい?」
リリアーナはご令嬢たちを見ても自分を選んでくれるのなら、と考えたのだった。リリアーナもまた、ファブリノにご令嬢たちを選ばず帰って来てほしいと思っている自分に気が付かない。
「リリアーナさんが、いや、リリーがそれでいいならいいよ。俺、手紙書くからさっ!」
リリアーナは、愛称呼びされたことに頬を染めた。女の子に慣れた男が見たら脈有りとわかるだろうが、ファブリノはそこまでおませさんではなかった。残念。
二人は子供たちが、勉強している食堂へ戻る。
「攻略中、続行となりましたぁ!」
コルネリオが笑顔で報告した。
「同じく、ますます攻略中になりましたぁ!」
ファブリノもバンザイしながら報告した。
「「「「あ〜ぁ」」」」
「違うぞ!振られてない。チャンスはまだある!応援してくれっ!!俺が戻って来たとき、リリーを好きなヤツがいたら堂々と勝負だぁ!」
「僕もだよ。半年は側にいていいって言われたし!」
二人は必死に可能性があることを訴えた。
「「だから、勉強やるぞぉ!」」
「「「「おー!」」」」
それを廊下で聞いていた、ビアータとアルフレードとサンドラとリリアーナは、苦笑いした後大笑いしてしまった。
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サンドラとコルネリオは、ビアータたちよりも3日早く出発した。目的地はグランディ男爵邸。サンドラの実家だ。5日後、コルネリオの実家でビアータたちと落ち合う約束になっている。
ビアータたちが王都へ戻る時、デルフィーノたちも戻ることになったのだが、二人の大工はこの別棟が立つまで残ると言った。木こりのチェーザとレンガ職人のコジモは移住すると言った。みんなはとても喜んだ。空の馬車が5台、北の領地へ戻っていった。デルフィーノは、遠回りして王都にビアータたちを送ってくれることになった。馬車4台は、ここに置いていき大工さんたちが戻るときに1台使うそうだ。馬車3台と馬3頭は置いて行ってくれるそうだ。
「馬も買うより繁殖させた方が安上がりだよな」
ラニエルは、馬を撫でながらルーデジオに伺いをたてた。
「とりあえず、今いる馬たちは血縁ないはずですのでやってみましょうか!」
ルーデジオもすぐに賛同した。デルフィーノのおかげで、大人たちもやる気に溢れている。
「また来るからなぁ!」
子供たちは、デルフィーノに頭をワシャワシャされて涙ぐんだ。デルフィーノは泣くのを誤魔化すために、ビアータたちを急かして出立した。馭者台には、デルフィーノとアルフレードが座る。
「かわいい子供たちばかりだったな。あいつらが浮浪者になったかもしれねぇなんて、な……」
デルフィーノが鼻をすすった。
「うん。こんなすごいことに関われるなんて幸せだよ。父さん、僕、当分領地へは戻らない。もしかしたら、ずっと。ハハハ、あそこにいると、その時間が取れるとは思えないんだよね。ごめんね、父さん……」
家族のいる北の大地はもう踏まないかもしれない。アルフレードはすでにそれだけの覚悟をしていた。それだけの夢を持っていた。ビアータとともに。
「当たり前だ!お前はこれからもあそこに来る子供たちを背負うんだぞ。しっかりやれ!」
ガハハと笑うデルフィーノは、アルフレードの成長を心から喜んでいた。それに、アルフレードには言わないが、このまま放っておくつもりもなかったのだ。
「ありがとう、父さん。母さんにも手紙を書くよ」
「ああ、それもたまにでいいぞ。手紙書く暇あったら、1鍬でも領地を開拓しなっ!それに、卒業式で会うほうが先だろうしな!ハッハッハ!」
「アハハ!それは言えてるね!」
青空が続く街道で大きな体の二人が馭者台で大笑いしていた。
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サンドラとコルネリオは、ビアータたちより一日早くファーゴ子爵家に着いた。応接室でファーゴ子爵夫妻と話をした。
「おお、サンドラちゃん。この前は会えなくて残念だったよ」
ファーゴ子爵が両手を広げてサンドラとコルネリオを迎え入れた。
「おじ様、こんにちは。今日もお世話になります」
サンドラは躊躇なく、その胸に飛び込む。コルネリオは少しばかり嫉妬する。もちろん、父親に。
「もう!サンドラちゃんったら、遠慮はいらないのよっ!自分の実家だと思ってくれていいのよ」
ファーゴ子爵夫人は、サンドラが来ただけでご機嫌だった。子爵から離れたサンドラを抱きしめた。
「うふふ、おば様、ありがとう!」
サンドラもファーゴ子爵夫人に抱きつく。コルネリオは、……こちらも羨ましげに見つめていた。
ちなみに、子爵も子爵夫人も、コルネリオのことは抱きしめなかった。
「あれ?兄上は?」
コルネリオは、1番上の兄を『兄上』、2番目を『にぃ』、3番目を『兄さん』と呼ぶ。
「それがな、この前の王都での見合いがうまくいってな!」
「まさかっ!州長令嬢が嫁に来るの?」
コルネリオは思わず眉間に皺を寄せた。
「もう、そんなわけないでしょう。王都に残っていた卒業生も参加していたのですって。その方、2つほど向こうの男爵領のお嬢さんなんだけど、次女なんですって。その方とうまくいったらしいわ」
ファーゴ子爵夫人もさすがに長男の婚姻話は嬉しそうだ。
「ステキ!運命の出会いですわねっ!」
「もう!サンドラちゃんったら、可愛いわ!ふふ、あなた達もそうではないの?ふふ」
サンドラとコルネリオは、顔を赤くした。
「若い者をからかってはいけないよ。これで、サンドラちゃんが家の嫁に来てくれなくなったら、どうするんだい?」
ファーゴ子爵は笑顔で夫人を制したが、言葉はサンドラを迎えるつもりが溢れていた。
「あらあら!それはごめんなさいね。サンドラちゃん、ゆっくりコルネを検分していいのよ。オホホホ」
「は、はい……」
サンドラは、顔を赤くしたまま返事をした。
「そうだ、それでな。今、その方の親御さんに挨拶に行っているよ。うまくいくといいがな。あとな、グラドゥルが帰ってきているぞ。今日は友人宅へ泊まるそうだ」
ファーゴ子爵は、まるでおまけ話のように次男の帰宅を伝えた。
「え!ラドにぃが?」
コルネリオはびっくりしていた。
「ああ、明日には話もできるだろう」
次男グラドゥルはなかなかの風来坊で、帰宅というのはこの領のどこかにいると言う意味だ。デカイ男を感じる。
「そうだわ、サンドラちゃん。クッキーを焼いたの。サロンでお茶しましょう!」
「はいっ!」
ニコニコとしたファーゴ子爵夫人とサンドラは、応接室を出て行った。
「サンドラちゃんは、ご家族とどうだったんだ?」
ファーゴ子爵が真面目な顔をして、声を小さくした。コルネリオは少し肩を揺らしたが、納得することもあった。
「あ、だから母上はサンドラと話をしてくれるのか。父上もありがとうございます」
コルネリオは、自分のことではないのに丁寧に頭を下げた。
「何。そんなことは気にするな」
ファーゴ子爵はワインのグラスを持ったまま、頷いていた。
「とてもいいご家族でした。上のお兄様は、すでに結婚されて子供もいました。2番目のお兄様は州都で行政をしているそうで、お姉様は嫁がれていて、お二人とは会えませんでした。弟君二人は初等学校だそうですが、夏休みなのでいました。元気でいい子たちでした」
コルネリオはファーゴ子爵をまっすぐに見て報告した。
「ご両親は?」
「極々普通のご夫婦でしたよ。確かに夫人は、お若いようでした。夫人は、サンドラのことを泣いて出迎えていました。サンドラは、中等学校の時にも長期休暇に戻らなかったようで、5年ぶりだとおっしゃっていました」
サンドラは中等学校から学園にいくことになったときも、ビアータの家から行ったのだ。手紙でのやり取りだけで学園へ荷物を送ってもらっていた。
コルネリオの見立てでは仲良くなりたいとお互いに思っているが、まだ時間は必要だろうと感じていた。
「そうか、わだかまりは一度で消えるものではない。お前が何度も引っ張っていってやれ」
「はい!そうしていきます」
コルネリオの果実水とファーゴ子爵のワイングラスが小さく重なり、『チーン』といい音をたてた。二人の男は、サンドラの味方だった。
それにしても、ファーゴ子爵の言葉はすでにサンドラは嫁のようだが、男女のことに疎いコルネリオには察することができなかった。
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