15 プロポーズ
翌日、早速、コルネリオは畑担当、ファブリノは酪農担当で作業を手伝った。ビアータとアルフレードは、昨日の予定通り木材を取りに行った。サンドラは、ルーデジオとこれまでの話やこれからの話をしているらしい。
昼飯の後、2時間の学習時間だ。初等学校の勉強が終わっていない子供たちと、中等学校の勉強を望むちょっと大きな子どもたちは、食堂で、レベルに合わせて分かれ、わからないことがあると、リリアーナに聞くようだ。
コルネリオとファブリノも今日から先生だ。普段見てくれているルーデジオは、まだサンドラとの話中のようだ。2人は、ゆっくりとそれぞれのノートを見ながら、食堂を回る。
2時前、一旦休憩。女の子たちが、コルネリオとファブリノの周りに集まった。年齢としては、2つほどしか変わらない子もいる。
「どちらが、サンドラさんの恋人なの?」
年長者の女の子ケイトが代表して聞いてきた。女の子のリーダーだ。
二人は絶句したが、いち早く立ち直ったファブリノが、コルネリオを指差して、
「現在、攻略中!」
と言った。女の子たちは、『きゃあきゃあ』と大喜びだ。コルネリオは、赤くなるしかできない。
「ファブリノさん!それなら、リリアーナさんがオススメよ。キレイだし、優しいし、何でもできるの!」
こちらも年長者の女の子メリナだ。メリナとケイトは孤児院からの親友だ。女の子たちはまたしても『きゃあきゃあ』と喜んでいる。
ファブリノは、あまりの直球に、防御ができず、顔を赤くしてしまった。
「きゃあ!ファブリノさん、リリアーナさんのこと好きなのねっ!やったぁ!こっちよ!」
ファブリノは、女の子たちに引っ張られて、リリアーナの前に突き出された。
「もう、みんな、からかっちゃダメよ。王都には、私みたいなオバサンより、かわいい子はいっぱいいるのよ。ファブリノさん、ごめんなさいね」
リリアーナは、困った笑顔で謝った。ファブリノは、なんとなく、何もしていないのに、拒否されたようで、対抗心のようなものが芽生えた。
「そんなことありません。リリアーナさんのこと、オバサンだなんて、思ってない!リリアーナさんは、ステキな女性だと最初から思ってた。それと、俺のことは、『リノ』って呼んでほしい」
「「「「きゃあーーー!!!」」」」
ファブリノは、どさくさに紛れてまんまと告白した。リリアーナも、あまりの直球に、顔を赤くしていた。
「ほぉら、時間だぞ。リリアーナさんの応援したいなら、もうからかうなよ。大人は複雑なんだぞぉ」
ジャンがそう言って『にっこり』とすると、『はーい!』と全員素直に席に付き、各々勉強を始める。
ジャンがファブリノとリリアーナに近づいてきた。
「20分くらいなら、大丈夫ですよ。少し、話をしてきてください」
ファブリノがコルネリオを見ると、コルネリオが頷いていた。
ファブリノとリリアーナは、廊下へ出て、話を始めた。しばらくして、帰ってきたファブリノは、みんなに宣言した。
「俺も、リリアーナさんを攻略中!よろしくなっ!」
まさか、ここで暴露するとは思ってなかったリリアーナは、またしても真っ赤になった。女の子たちだけじゃなく、男の子たちも大騒ぎだ。
「だから、勉強続けるぞぉ!」
「「「「はーい!」」」」
ファブリノの大きな声に、子どもたちも大きな声で返事をした。
ファブリノとしては、みんなが二人のことを気にしているのに、勉強に集中できるわけがないから、暴露しただけのことだった。子供たちの切り替えを見て、それに気がついたリリアーナは、ファブリノへの好感を1つ上げた。
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勉強時間が終わると、すぐにそれぞれの作業に向かう。ファブリノはジャンと並んで歩いた。
「ファブリノさん、リリアーナさんのこと、本気ですか?」
ジャンが俯き加減で、道の石を蹴った。
「リノでいいって。まあ、一目惚れっていうのは、本当だよ。でも、リリアーナさんから見たら、俺なんてガキだし、とりあえずここには2ヶ月しかいれないし、そういう意味では、まだ何もわかんないよな。ただ、ふざけた気持ちじゃないよ」
「そうですか。それならいいんです。リリアーナさんは、僕らにとって大切な姉なんです。だから、うるさいこと聞いてすみません」
ジャンは、あまりにも真っ直ぐなファブリノにびっくりしていた。
「え!あ、そっかぁ。それなら心配で当たり前だな。そうだなぁ」
ファブリノは、眉根を寄せて真剣に考えながら歩いた。
「あ、そうだ!あのな、俺、ビアータもアルフレードもサンドラも好きなんだよ。もちろん、友達として、な。だからさ、あいつらが困るようなことはしないよ。確かにリリアーナさんへの気持ちは、まだ始まったばかりだけど、あいつらへの気持ちは、絶対だから。そっちを信じてくれよ、な!」
ファブリノがジャンの背中を叩く。
「プ、ハハハ!リノさんって真面目ですね。わかりました。信じます」
ジャンは、腹を抱えて笑った。
「俺を真面目なんていうのはジャンくらいのもんだぜ。そういえば、ジャンっていくつなんだ?」
「17です」
「なぁんだ!1つしか変わんないのか!なら、これから敬語も『さん』付けもなしなっ!ここでは、ジャンが先輩なんだし!なっ!」
「わ、わかったよ、リノ」
ジャンは、頬を指でカリカリとかいて、照れ隠しした。
「おぉ!ハハハ!あ、でも、アルは『さん』付けしておけよ。あいつはいつかここの領主になるんだからっ!」
「だよなっ!俺も期待してるんだっ!」
ジャンはとても嬉しそうにファブリノの顔を見た。ファブリノはまだ1日目なのに、なんとなくそう確信していた。
「一緒に、応援していこうなっ!」
二人は肩を組んで、牛小屋へ向かった。
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アルフレードたちは、昨日確認した場所に、木材を運んだ。ここには、今、みんなが住んでいるところと同じようなものを作る予定だ。大工のレリオとレリオの弟子で17歳になる男の子テオとウルバは早速作業にかかった。アルフレードとビアータは、歩いて帰ることにした。
アルフレードは、いつものようにビアータの手をとる。ビアータも当たり前のように手を繋ぐ。
「ビアータ、少し散歩しようよ」
アルフレードは気負うことなく、いつもの笑顔でビアータを誘った。
「ふふふ、いいわよ」
小川の方へと二人は歩きだした。新棟予定地から丸太橋を、渡って小川に沿って歩く。
「リノに何か言われたの?」
ビアータは、アルフレードと繋いだ手を愛おしく見つめて、歩く。
「ふふふ、やっぱりビアータにはお見通しだよね」
アルフレードが青空を見上げて、笑った。
「そうね、昨日の今日だもの、わかっちゃうわね」
ビアータもアルフレードと同じ空を見た。二人で同じものを見ていられることが、ビアータには幸せだった。
この小川を作ったときに、レリオが椅子代わりにとを置いてくれた丸太が、木の木陰に置いてある。丸太橋から5分ほどでついた。
そこへいつものように座る。いつもは、並んで座り、のんびりと小川を眺めることが、二人のデートだ。だが、今日は、アルフレードがビアータの方を向いている。
「僕ね、学園にいるとき、ビアータは、プロポーズはしてくれるけど、『好き』とは言ってもらえてなかったから不安だったんだ」
アルフレードは笑顔のままだ。その不安は、昔の話だということだろう。
「そ、そうね、私にはそれは何だか恥ずかしくて」
ビアータが思い出して頬を染める。
「プッ、『結婚しましょう』は、言えるのにかい?」
アルフレードは、ビアータが赤くなるなんて思っていなかったので、目を丸くして、その後吹き出した。
「そうなのよ。それは簡単に言えちゃったのにねぇ。ふふ」
アルフレードのびっくり顔に、ビアータも笑ってしまった。
「そっかぁ。でも、ここでビアータと生活してたら、言葉なんてなくても、大事にされてることとか、必要にされてることとか伝わるから、言葉なんていらないのかなぁって」
「うん、私もそう感じるところがあるわ。それは、アルにだけではなく、ね」
ビアータもアルフレードも、『ビアータの家』の面々が浮び、思わず笑顔が溢れる。
「そうなんだよ。ビアータだけ、じゃないんだ。だからね、ビアータだけに思っていることは、言葉にしなきゃダメだなぁって、考えたんだ」
ビアータが頷く。
「ビアータ、僕は何をやっても、君には敵わないんだ。今までもこれからも。そんな僕でよかったら、君と結婚させてほしい」
アルフレードは、ビアータの目を見て、真っ直ぐな言葉で伝えた。
「アル、忘れちゃったの?プロポーズしたのは、私なのよ。あなたは、イエスって、言ってくれればいいの。
あの、私、ね、入学式で、あなたに一目惚れしたの」
「僕に?本当に?」
それは知らなかったアルフレードは、顔が熱くなった。でも、自分より赤くなって教えてくれたビアータに、全身全霊で応えたいと思った。
「プロポーズの返事は、もちろん、イエスだよ。ビアータ、愛してる」
ビアータの目から涙が溢れた。
「ふふ、それだけは、先に言われちゃったわ。アル、私もあなたを愛しているわ」
アルフレードがビアータに顔を近づけると、ビアータは、目を閉じてアルフレードを受け入れた。
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夕飯が終わると、立ち上がろうとするみんなをアルフレードが止めた。真ん中に、ビアータとともに立つ。みんなが注目した。
「みんなに報告があります。僕とビアータは、婚約しました」
一瞬の間のあと、建物が壊れるのではないかと思うほど、みんなが喜んだ。
「みんな、ありがとう」
「だから、これからもよろしく頼む」
拍手と歓声が響いた。二人はみんなに手を振って答えた。
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