14 二人の衝撃
コルネリオとファブリノにとって、すでに情報過多だ。自分たちの予想と違いすぎて、何を聞いていいかもわからないまま、食堂室らしきところに案内された。
「こんなものしか出せなくてすみません」
ジャンが3人にお茶を出す。
「いや、充分です。昼食は食べてきたんで。ありがとうございます」
コルネリオが頭を下げた。
「アルとビアータは?」
ファブリノはキョロキョロとしていた。
「大工のレリオさんと、土地の下見に行ってます。急に木材を安く手に入れられることになって、明日、引き取りに行くことになっていて」
「そう!それはよかったわね。森の木を切っても、乾かすのに時間がかかるものね」
「うん、大きくしていくためには、もっと大人の力が必要なのかなって話も出てる」
ジャンは、サンドラには敬語は使わない。
「急ぐなら、そうでしょうね。ビアータは、何て?」
「ビアータさんは、今いる僕たちのためには、あまり呼びたくないけど、スピラリニ王国に残っている食べられない子供たちのためには、急ぎたいみたい。よくアルさんと話をしているよ」
ビアータもアルフレードもそんな話までジャンに聞かせているのだ。子どもたちの代表として、意見を求める存在なのだろう。
「そう、ここにいるみんなは何て?」
「僕たちのリーダーは、ビアータさんだ。ビアータさんを騙したり、ビアータさんより偉くなろうとする大人ならいらないよ」
ここから先は、少し込み入った話になりそうだとサンドラは思った。
「コル、リノ、疲れたでしょう。夕飯まで休んで。ジャン、部屋に案内してあげてくれる?私は、みなさんに挨拶してくるわ」
3人はサンドラの指示に素直に従った。
コルネリオとファブリノに与えられたのは、二段ベッドと、小さなテーブルと椅子が2つ、タンスが2つある部屋だった。二人の荷物は運び込まれていた。ジャンは、頭を下げてすぐにいなくなった。
どちらが言うでもなく、テーブルにつく。
「ビアータの夢って、思っていたより、デカい夢だったな」
ファブリノが、テーブルに肘をついて、顎を支える。
「うん。きっと、サンドラも最初から手伝ってるんだろうな。サンドラが品種改良始めたのって、初等学校からだって言ってたろう?もしかしてその頃からなのか?」
コルネリオはどうしてもサンドラのことを気にする。
「昼間に見てみないとわからないけど、柵の広さからいって、そのくらいからやっているのかもな」
「11歳または、12歳か……」
初等学校卒業だと、そのくらいの年になる。
「こんな時に、なんだけどさ、お前、サンドラのこと、どうするつもりなんだ?」
ファブリノは、肘をついたまま、横目でコルネリオを見ていた。
「な、なんだよ、急に」
「関所のおっさんも言ってたし、さっきのジャン君だってサンドラには好意的に見えたし、お前、のんびりしてていいのかなぁって」
関所の衛兵の話なら、コルネリオも少々考えさせられた。だからこそ、あそこで大きく返事をしてしまったのだ。
「僕だって、今日1日でライバルが増えすぎてびっくりしてるんだ。って、よく考えたら、サンドラは学園では特殊な生活しているから知られてないだけで、ちゃんと見ればかわいいもんな」
「うん」
ファブリノがあまりに素直に頷いたので、コルネリオはびっくりした。
「え?お前もライバル?」
「それはない。お前がどう見ても、サンドラのこと気にしているのに、俺がサンドラを好きになることはない」
ファブリノが身を起こして、胸を張った。
「ふぅ、よかった」
「サンドラが俺を好きになることは、あっても、な」
ファブリノは、真面目な顔で答える。
「っっ!」
「冗談だ」
と、真面目な顔。
「ふざけるなっ!今の僕には余裕なんてないんだぞ」
「じゃあ、早めにちゃんとしろ」
胸を張ったまま、横目で睨んだ。
「……。だよな」
「お前って、顔は男前だから、もっと軽いのかと思ってたよ」
ファブリノは、机に突っ伏して、顔だけコルネリオに向けた。顔は真面目なままだ。
「逆だよ。女の子は苦手だったんだ」
コルネリオは、ファブリノの視線に耐えられず、俯く。
「はぁ、歪んでるなぁ」
「ごめん」
ファブリノのため息に、コルネリオは思わず謝った。
『コンコンコン』
なんとなく、間の空いた二人の部屋にノックの音が響いた。
「はい?」
ファブリノが、声だけで対応する。
「僕たけど。いいかな?」
「「アル!!!」」
ドア側にいたファブリノがドアを開けると、小麦色に焼けたアルフレードがニコニコして立っていた。
「二人ともよく来てくれた!出迎えできなくて、ごめんね」
「そんなの気にすんなよ。入ってくれ」
アルフレードを部屋に招き、椅子を勧め、ファブリノはベッドに腰掛けた。
アルフレードは、ずんずんと部屋に入り、左手でファブリノの腕を右手でコルネリオの腕を叩いた。
「会えて嬉しいよっ!」
それからは、二人は、聞きたいことを思いつくところから聞いていき、アルフレードも二人のことを聞いていたら、あっという間に夕飯時間になった。
〰️ 〰️ 〰️
夕飯時は、コルネリオとファブリノの紹介と、ここにいる大人たちを紹介された。
大工のレリオ
畑担当のジーノ、ブルーナ夫妻
酪農担当のラニエル、セレナ夫妻
料理担当のセルジョロ、グレタ夫妻
教師のリリアーナ
政務のルーデジオ
夫妻は、みんな50歳を越えていそうだ。子供たちの名前は、おいおいということになった。
賑やかな食事の後、ビアータ、サンドラ、アルフレード、コルネリオ、ファブリノは、食堂で話をした。そろそろ寝ようという話になったとき、コルネリオがサンドラを呼び止めた。3人は食堂を後にした。
30分ほどで、コルネリオが部屋に戻ってきた。アルフレードも待っていた。
「で、どうだった?」
アルフレードがベッドに座わったまま聞いた。
「ん、保留……」
「そっか。まあ、妥当だろう。却下じゃないなら、これからはお前をそういう対象で見てくれるってことだろうからな」
ファブリノは、あっけらかんとフォローした。その軽さがコルネリオを助けた。
「そうか!そうだな。ありがとう、ファブリノ!実は、結構ショックだったんだ」
「おいおい、自信ありだったのかよ」
ファブリノが訝しんだ目でコルネリオを見た。
「そうじゃないけど………」
コルネリオの答えが煮えきらない。
「そう思わないと怖くて告白なんかできないよね」
アルフレードの優しい言葉に、『コクン』コルネリオが頷く。
「はぁ?じゃあ、お前らはどうなったの?」
ファブリノの訝しんだ目は、そのままアルフレードに移った。
「あ、うん。あのまま」
アルフレードの表情は変わらない。
「はぁ?この4ヶ月何だったんだよ?」
アルフレードの表情がかわらないことに、ファブリノは、苛立ちと不信感を抱く。
「信頼は増していると思う」
アルフレードは、ビアータを思い出しながら、しっかりと答える。
「つまり、『そう思えなくて怖くて告白ができてない』ってことか?」
ファブリノは、それを違う意味に捉えた。
「ちょっと違うかな?なんかもうこれが当たり前で、確認の必要がないんじゃないかなぁって」
『パーン』『パーン』
二人は椅子から立ち上がってアルフレードの頭をはたいた。
「それは違うぞ!今日までそう思っていた僕が言うのもなんだけど!いや、だからこそ、違うと言えるぞ!」
コルネリオが熱弁する。
「そうかぁ。わかった。チャンスがあったら、確認しておくよ」
ファブリノは天井を仰いで額に手を当てた。
「告白じゃなくて、確認ね。すでに夫婦みたいだな」
と、言ったと思ったら、顔を起こしてアルフレードの顔を凝視した。
「もしかして!告白もしないのに、キスとかしたのかっ?」
「え??ほんと?」
コルネリオもびっくりしている。
「いやいやいや、それはまだだよ」
「『それは』ってなんだよ」
ファブリノのツッコミに、アルフレードは頭をかいた。
「あー、二人の時には手はつなぐ、な、いつも。なんとなく、自然に、な」
「はぁ〜、そりゃあ、自信有りだよなぁ。羨ましい」
コルネリオがため息をついた。
「それより、僕は見たよ。リノ」
アルフレードが形勢逆転とばかりに、ニヤニヤする。
「え?何?」
「僕が指摘していいの?」
「だから、なんだよっ!」
ファブリノが苛ついて怒鳴る。それでも、アルフレードとコルネリオのニヤニヤは止まらない。
「「リリアーナさんに一目惚れしたでしょ?(しただろう?)」」
ファブリノは、耳まで真っ赤であった。
「リリアーナさんは、2年前からここにいるんだって。元々は、ビアータのメイドさん。ビアータの親父さんの勧めで、平民なのに中等学校を出てる。主席で卒業したんだって。今、21歳だよ。婚約者や恋人の話は聞いたことがない。ここ4ヶ月もそういう人は会いに来てないよ」
アルフレードは嬉しそうに説明するが、ファブリノは苦虫をかみ潰した顔をしていた。
「そ、それは、ご親切にどうも」
「ということは、認めるんだね」
「……。だけど、まずは知りたいし、知ってほしい、からだろう?」
「へぇ!一目惚れは、認めるんだっ!お手本、楽しみにしてるね。フハハ」
コルネリオは、ファブリノの素直さに少し驚いていた。
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