11 二度目の長期休暇
ビアータとサンドラとコルネリオが、いつも行っている孤児院へ行くと、院長先生が珍しく、お客様と話をしてほしいという。サンドラは、話はビアータに任せて、コルネリオとともに、子供たちのところへと行った。
応接室には、院長先生と同じ年くらいの神父服の男性がいた。
「突然の申し出にも関わらず、お話をさせていただけることに感謝いたします」
とても丁寧な神父様で、ビアータは恐縮した。
「とんでもありません。私などが神父様にどのようなお話ができるのかわかりませんが、何でも聞いてください」
神父は、『ビアータの家』の現状を聞いてきた。ビアータは包み隠さず話した。
「素晴らしい活動ですね。ビアータさんのお優しい心が伝わります」
神父様は本当に感動したようで、途中、涙も流していた。
「とんでもありません。結局は自分でできること以上になってしまい、大人の人達の手を借りております」
ビアータは、この点は本当に気にしていた。今となっては、多くの大人に協力してもらっていた。
「いやいや、本来大人たちがやるべきことなのですよ。ところで、大変心苦しいのですが、私の孤児院でも、どうしても仕事に向かず、帰って来る者もおります。よかったら、数人で構いませんので、そちらでお世話になれると嬉しいのですが」
「そうですか。春まで待っていただけますか?春には私も『私の家』に帰りますので、その時に一緒でよろしければ」
「ええ、もちろんそれで問題ありません。感謝いたします」
神父様が深々と頭を下げた。
「ビアータさん、だいぶたくさんの子どもを引き受けてくださっておりますが、大丈夫なのですか?」
院長先生は、少し心配している。子どもたちの楽しそうな手紙。その世界を壊したくない。
「大丈夫ですよ。でも、これからは、建築の関係でお待たせしてしまうこともあるかもしれません」
ビアータは、状況を思い出しながら、慎重に答えた。
「ええ、ええ、もちろん待つのはかまいません。少しくらいの規則、子どもたちの未来が見えるなら、破りますわ」
院長先生の大胆発言に、ビアータも神父様も笑った。
「こちらの孤児院の子供たちと合わせて5人なら受け入れできます。院長先生、よろしいですか?」
「わかりました。ビアータさん、ありがとうございます。『ビアータさんのお家』から届くお手紙は、喜ぶ子供たちからのお手紙ばかりで、本当にホッとしてますの。そちらにお世話になる子は、比較的、のんびりした子が多いものですから」
「ふふふ、確かに少しだけのんびりしていますね。でも、それが、『私の家』にはいいようで、大きな争いもなく皆で協力できています。勉強も頑張っていますよ」
院長先生は、涙を流した。
「ええ、ええ、わかります。あの子たちは決してできない子たちではないのです。『ビアータさんのお家』のように、大きな子たちの孤児院があれば、いつか自立できる子たちなのです。ビアータさん、本当にありがとうございます。感謝しております」
院長先生は、ビアータの手を握り、そこに額を当てて、お礼を言い続けていた。
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2学期のテストも終わり、短い冬休み。そして、3学期には、ビアータは無事Cクラスにいられた。
「ビアータ、すごいね!このクラスで上位じゃないかっ!1学期をお休みしていたとは思えないよ」
アルフレードが興奮して褒めた。
「うふふ、すごいプレッシャーだったのよ。またこのクラスにいれてよかったわ!」
この頃、ビアータとアルフレードは、何度も鍛冶屋にあるお願いをするために、通っていた。やりたいことを鍛冶屋の職人に話をして、形を話し合っていく。試行錯誤を繰り返して、ある程度形になったのは、3学期のテストも終わっていた。
ビアータは、今回は最初から夏休みまでお休みすると、4人に伝えた。4人は全く驚かなかった。それほど、ビアータが充実しているように見えた。そして、戻ってくると信じることもできた。
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院長先生から連絡があり、今回は男の子3人女の子2人がビアータとともに行くことになった。
学園の馬車寄せに、ルーデジオの箱馬車と、ビアータが頼んだ幌馬車と、護衛騎馬2名が入ってきた。幌馬車にビアータの荷物を積んでいく。例の鍛冶屋での試作品も積み込んだし、サンドラの研究している野菜の苗や種も積み込んだ。箱馬車の中にはすでに5人の子供たちが乗っていた。
サンドラたちが、見送りに立っているが、みんな落ち着かない。アルフレードが来ていないのだ。
アルフレードが学園の玄関から走って来た。
「ごめん!学園長に挨拶してたら、遅くなっちゃった!」
「「「「え!!??」」」」
アルフレードの格好を見て、みんな驚いた。旅行カバン1つに帽子を被り、どう見ても遠くに出かける格好である。ファブリノもコルネリオも予想していなかった。
「アル!!お前、まさか行くのか?突然?」
「本気?学園は?」
「学園長に3年生の1学期の勉強範囲は聞いてきた。教科書もビアータの家に送ってもらうことになった。僕も2学期に戻ってくるよ」
「アル、本気なの?」
ビアータでさえ、不安顔だ。
「今度は僕がビアータを追いかけるから。そう決めたから」
「え!!」
ビアータの顔が真っ赤になった。コルネリオとファブリノは、アルフレードの背中をバンバンと叩き、親友の気持ちが固まったことを喜んだ。
「ほら、早く出ないと、今日の目的町まで着けないわよ。いってらっしゃい!」
笑顔のサンドラに押され、ビアータは慌てて馬車に乗り込む。アルフレードは、ルーデジオの隣、馭者台に乗り込んだ。
「サンドラ、小麦たち、よろしくね」
温室の小麦は、あと数週間で収穫だ。それをもう一度交配させる予定もある。
「任せといて、ビアータに負けない助手がいるから大丈夫よ」
サンドラがビアータにウィンクする。ビアータは、チラリとコルネリオを見ると、コルネリオは、頭の後ろをかいて頬を染めて照れていた。
馬車が動き出した。
「リノ、兄さんには手紙を書く。でも、リノからも伝えておいてくれないかな?」
「任せておけよ。駆け落ちしたって伝えておくよ。ハハハ」
馭者台のアルフレードにファブリノが手を振る。
「コル、野菜日記は、任せといて!」
「ああ!気温を書くのは忘れるなよ!」
コルネリオも手を振った。サンドラは両手をあげて、振っていた。
3人は、道の向こうに馬車が見えなくなるまで見送っていた。
「サンドラも行きたかったんじゃないの?」
コルネリオは優しく聞いた。
「もちろん行きたいわ。でも、今、小麦たちは動かせない。あと1年でどこまでできるかわからないけど、ここで頑張ることが、ビアータに応えることになるの」
「僕に手伝わせてほしい。ずっと」
コルネリオは乞うようにサンドラを見つめた。
「もちろんよ!頼りしているわ、助手さん!」
サンドラがくるりと向きを変え、温室に向かった。コルネリオがガックリと肩を落とした。ファブリノは、コルネリオの肩を抱いて、『パンパン』と2度叩いた。
「ああ!俺も行くんだったなぁ!」
ファブリノが大きな声で残念がり、サンドラの後を追った。コルネリオも急いでついていった。
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