涙のハンバーガー 後編!!
「くっちゃん!」
「少々戦闘準備に時間がかかってしまいました」
「準備?」
私が首を傾げると同時、ロマーノさんは目を見開いて相好を驚愕に染めました。
兵士たちがくっちゃんに銃口を向けます。
「き、キサマ、どうやってここに……」
「あの田舎町から一番近いあなたの土地は、この別荘ですから」
「しかし、外には……」
直属部隊が厳重に警備をしているはずなのに。
ロマーノさんが疑問を口にしたとき、
「兵には兵。私が彼女に協力したのよ」
コツンコツンとヒールの足音と共に、一人のご令嬢が威風堂々と近づいてきました。
長く美しい黒い髪。誰もが見惚れてしまうほどの美貌の乙女。
私の数少ない友人にして最強の令嬢、エルス先輩です。
「先輩!? どうしてここに!?」
駆け寄った途端、エルス先輩は瞳を鋭く細めて私を睨みつけてきました。
「近寄らないで」
「え……」
「近寄らないでと言っているの。俗物」
あれ、先輩ってこんな冷たい人でしたっけ。
あそっか。飽きたんだ私に。冷めたんだ私との関係。
そうですよね。私ポンコツですもんね。ちょっとした気の迷いだったんですよねあの日々は。
よく聞く話ですよ、仲良しだったのに歳を重ねるに連れだんだん距離が開いてそのうち「あんなやつとはもう友達じゃないんですけど」みたいな残酷すぎるお気持ちを平然と口にするなんて。
エルス先輩は敵意の眼差しをロマーノさんに向けました。
「戦争を熱くするつもりかしら?」
ロマーノさんは額から汗をこぼし、虚勢の作り笑顔で返しました。
「おやおや、これはエルス嬢。ようこそ我が別荘へ。いらっしゃるのならそう仰ってくれれば相応の用意をしましたのに」
「あなたと協会とのいざこざに首を突っ込む気はないが、こうふざけた真似をするのなら」
複数の足音が前後から押し寄せてきました。
ロマーノのさんの兵とは違う別の兵士たち、エルス先輩の部隊なのでしょうか。
彼らがロマーノさんに銃口を向けると、エルス先輩が微笑みました。
「考えなくてはならないわね」
「……ちっ」
先輩の兵がシャトンさんを救出します。
先輩とロマーノさんが睨み合っている中、くっちゃんが私の手を掴みました。
「いきましょう、お嬢様」
「え? う、うん」
その場から離れだすとき、私がふと先輩を見やると、先輩も私に視線をくれました。
別人のように冷たい表情。なのに瞳からは寂しさが感じ取れて、つい引き込まれてしまいます。
「お嬢様どうしました?」
「ううん。大丈夫」
倒され束縛されている兵、降伏している兵士たちや、彼らを囲む先輩の兵を横目で見ながら、私たちは別荘をあとにしました。
「準備って、先輩に助けを求めてたってこと?」
「はい。あの方なら、いやもはやお嬢様に味方してくれる人なんてあの方しかいませんから」
「でも、だいぶ嫌われてるっぽいんですけども」
少し間を開けたあと、くっちゃんは唇を歪ませながら首をかしげました。
「うーん。言うなと言われているのですが」
「言っちゃいなよ。くっちゃんはそういう人間じゃん」
「救援を求めた際、エルス様にすべてをお話しました。二つ返事で協力を受け入れてくれたのですが、エルス様は一つ、懸念があったのです」
「?」
「優しさからついお嬢様を養ってしまうのではないかと。お嬢様と私の目的、冒険の邪魔をしてしまうかもしれない、と。だからああやってわざと冷酷な態度をとってお嬢様への情を押し殺したのでしょう。……といっても、お嬢様が旅をやめてエルス様と共に暮らしたいのであれば、私も引き止めはしません」
最後の一言は、くっちゃんらしくもなく声色が低く、明らかに嫌そうでした。
これってもしや……デレ?
おやおやあ? もしや私、モテ期来ちゃってるんじゃないんですかあ?
パーフェクト令嬢と毒舌メイドから好意を寄せられちゃってますよ。
「大丈夫だよ。先輩の気持ちを無駄にはしないし、くっちゃんにもっと美味しいもの教えてほしいから」
「……」
くっちゃんは僅かに微笑むと、
「ところでガリガリに痩せてますけど、なにも食べてないんですか?」
懐から円形の包み紙を二つ取り出しました。
「あ! それは!」
「こんな形になるとは思いもしませんでしたが、まあ、お嬢様が権力に屈しつ頑張った記念ということで」
くっちゃんからそれを一つ受け取り、二人で包み紙を開くと、
「ちなみにエルス様に会いに行ったのはつい半日前で、この三日間はずっとダラダラ寝てました」
「暇だし助けに行くかみたいなテンションで来てくれたんだ」
私たちは一緒にハンバーガーを食べました。