イノシシ狩り令嬢爆誕!
旅立ちの日から2日、私はふらふらで馬車道を歩いていました。
奇跡のフライドポテト以来、なにも食べていないのです。街はあっても金がない。無銭で恵んでくれる聖人もいない。
いたのは虫だけです。
さすがに虫は食べたくないです。これでも元悪役令嬢ですから。
「くっちゃん、もう限界だよ……」
「うーん。困りましたねえ」
「くっちゃんは平気そうだね」
「食べてますから」
「なにを!?」
「虫」
「あ、ふーん」
しょせんは底辺一般人、舌が金持ちお嬢様とは違うんですね。羨ましいです。
くっちゃんはキョロキョロと辺りを見渡しはじめました。
「お! あそこに山がありますよお嬢様!」
「また虫しかいないんじゃ?」
「聞いたことがあります。この辺の山にはイノシシがいるって」
「豚!? お肉!?」
「食べたいですか?」
「もちもちもち!!」
「じゃあ、一狩りいきますか」
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山に到着しました。
簡単に狩りといっても、山はとても広いです。
それに下手に歩きまわると遭難してしまうかもしれない危険地帯。
山を舐めたらあかんのです。
「どこにイノシシいるのかな?」
「まずは痕跡を探しましょう。足跡とか、糞とか。頑張ってくださいね」
「私が!? 山は素人だよ!? 令嬢だから!」
「でも『元』じゃないですか」
くっ、こいつ、こういうときだけ元ってことを引っ張り出して……。
「これも悪役令嬢になる修行です!」
「て、手伝ってよね」
それから私は山を歩きまくり、痕跡を探し続けました。
「あ! これ足跡ですよお嬢様!」
「近くにいるかな?」
「慎重に歩きましょう」
足音をたてないよう足を進めていると、思いの外早くイノシシを発見しました。
これは幸先がいい! さっそく捕まえちゃいます。
「で、どうすればいいのくっちゃん」
「なんでも人に聞いちゃんダメですよ。自分で解決しないと」
「私の命がかかってるの!」
「声が大きいですよ」
「あ」
イノシシは私たちに気づき、露骨に警戒しだしました。
こうなったら力づくです! 体育の評価は1でしたが、私には溢れ出るお嬢様パワーがあるのです。世の中金持ちが最強だって事実を思い知らせてやります!
「てりゃあああ!!」
雄叫びをあげなら突っ込むと、イノシシも突撃してきました。
正面衝突ですか、生物の頂点に立つ人間の力に怖気づくといいです!
「うぎゃああああ!!!!」
思いっきりふっ飛ばされました。
自然を侮ってました。許してください。カスゴミでごめんなさい。
ていうか金持ちパワーもなにも、いまの私はホームレスでした。死んで詫ます。
「お嬢様無事ですか!?」
「無事じゃないです」
イノシシは私がとっくに白旗あげてることなど知る由もなく、再度突っ込んできました。
「ひえぇ! 助けてくっちゃん!」
「あ、退勤の時間だ」
「専属メイドは24時間営業なのよおおお!!!!」
肋骨と鼻を折られました。
号泣止まりません。
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と思ったら気のせいでした。思ったより私の体は丈夫でした。毎日良いもの食べてたおかげですかね。
惨敗から数時間後、私たちは一旦山を降りました。
「うぅ、痛いよお……」
「大事なのは結果ではなく、努力をした経緯ですよ」
「努力だけじゃ腹は膨れないよ!」
「なら、リベンジするってことですか?」
痛いのはもう嫌です。自然と戦うのは怖いです。
でも、諦めたくない。空腹が、私の生物としての本能を刺激しているから!!
「くっちゃん、あとは任せたよ」
「おぉ〜! ここで人任せとはなんというクズ!! 主人公の自覚なしですね!!」
「これでも元悪役令嬢なので」
「でも一緒にいきますよ。私もお腹空いてきたので」
「えぇ〜。くっちゃん狩ってきてよお。メイドはご主人さまの命令に従うものじゃない」
「じゃあやめちゃおっかな、メイド」
「……」
イノシシリベンジ開始!
今度はちゃんと準備を重ねて挑みます。
人間は道具を用いてようやく獣と同等。ここは罠をしかけて、人類の叡智で震え上がらせてやります。
用意したのはシンプルなトラバサミ(くっちゃんお手製)。
イノシシの足跡と糞、食べ残しなどから生活圏を調べ、いくつか仕掛けました。
あとは時がすぎるのを待つだけ。
そして、
「あ、いましたよお嬢様!」
トラバサミに足を挟まれ苦しんでいるイノシシがいました。
「よ、よし、あとは捕獲するだけだね」
「どうやってですか?」
「……」
トラバサミ用意するだけで満足していました。
やばいです。縄も大きい袋もありません。
「やっぱり最後は力づくじゃないですかお嬢様?」
「うっ……。わ、わかった」
いまは初戦と違ってトラバサミに捕まってるし、大丈夫なはずです。
私はイノシシを気絶させるためにゆっくりと近づくことにしました。
「どーどー、どーどー」
しかしイノシシは暴れまわっていて、触ることすらできません。
「ひえぇ、怖いよお!」
「頑張れお嬢様!!」
「無理無理ホント無理!! 私さっき殺されかけたもん!! 一度染み付いた恐怖心ってのは大人になっても消えないものなの!」
「気合気合!」
「だったら手伝ってよお!!」
恐怖で足が震えだしたそのとき!
「見つけたわよ!」
カウボーイハットに金髪ツインテの悪役令嬢ハンター、アムさんが現れました。
「よくもダイナマイト投げてくれたわね!! もう逃さないわよ!!」
「アムさん! いいところに!」
「え?」
「銃貸してください、銃!」
「え? え?」
困惑するアムさんからリボルバーを奪い取り、くっちゃんに渡しました。
「私が止めさすんですか?」
「私銃撃ったことないもん!」
「しょうがないですねえ」
くっちゃんが銃口をイノシシに向けて、狩りを終えました。
ごめんなさいイノシシさん。あなたの命、決して無駄にしません。
その後、くっちゃんがイノシシの肉を揚げてくれて、さらにアムさんが持っていたパンでカツを挟みました(くっちゃんはどこから調理セットを出したのか)。
「できましたよお嬢様、これがカツサンドです。なかなか大きなイノシシだったので、きちんと3人分作れました」
「おぉ〜!」
「アム様、ソース持ってますか?」
「いやなんでアンタたちとカツサンド食べなきゃいけないのよ! まあ、あるけど」
たっぷりソースをかけて、
「いただきま〜す」
パクリと一口。
ん〜、柔らかいパンとカリカリの衣、その先にあるのは歯ごたえ充分のお肉!
噛む度に肉汁が口の中で広がってソースと絡み合い、えげつない協奏曲を演奏しています。
おいしい〜。
「ありがとうイノシシさん。ありがとう、自然」
その後、お腹いっぱいになって眠ってしまったアムさんにバレないよう、私たちは逃げ出しました。