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ホームレスお嬢様生誕祭

 夜9時。

 私は小等部の宿題を終えて、パパとママの寝室に向かいました。


「パパ、ママ、一緒に寝てもいいですか?」


 恥ずかしがりながら尋ねると、ママが笑いました。


「もう、6歳になるんだから一人で眠れなくちゃダメよ〜」


「ハッハッハ、いいじゃないか。おいで、ラミュ」


「わ〜い」


 パパとママに挟まれて、私はベッドのぬくもりに癒やされました。

 すると二人は私を抱きしめて、頭を撫でてくれました。

 この幸せなひと時が一日で一番好きです。


「ところでラミュ、今日はどんな悪いことをしたんだい?」


「草が生い茂る空き地に外来の虫を放って生態系と縄張り関係をめちゃくちゃにしました!!」


「ハッハッハ、いいぞお! なかなかいい悪事じゃないか!」


 やったあ! 褒められちゃいましたあ!

 ママもとっても嬉しそうです。


「これなら協会の入会テストに受かるわ。立派な悪役令嬢になるのよ」


「はい!」


 悪役令嬢、それは貴族の中でも選ばれし存在。

 数年前、とある学者さんにより、「悪役令嬢になるとなんだかんだハッピーな結末の人生を歩める確率が高い」という研究結果が発表されました。

 それに伴い、貴族たちの間には大事な娘の人生を思って、悪役令嬢を育てる協会を秘密裏に設立したのです。

 それが悪役令嬢協会。

 世はまさに、大悪役令嬢時代なのです!!


 はぁ〜、私も来週のテストに合格したら悪役令嬢の仲間入り。

 たくさん悪いことしても幸せになれるなんて最高の人生じゃないですか!!

 楽しみだなあ〜。



 ーー7年後ーー


「それではこれより、被告ラミュ・メチャカワイイの判決を言い渡しますわ」


 格式高い裁判所の中心に、13歳になった私は立っていました。

 私を取り囲むのは同じ貴族学校に通うお嬢様の皆様とOG。

 傍聴席の皆様も、検事も弁護士も裁判官も、みんな悪役令嬢協会の会員です。

 そして、現在私に突き付けられた罪状は、悪役令嬢失格罪。


「被告は悪役令嬢にあるまじきコミュ症陰キャである上に、目立った悪事もせず、舎弟もいないどころか下賤な市民にもビクビクするカスゴミな性格」


 ボロクソに言われすぎじゃないですか?


「ちょ、ちょっと待ってください! 悪いことしてます! 掃除で使った雑巾を洗わずにロッカーに戻しました!!」


「黙らっしゃい!」


「ひぃ! すみませんごめんなさい! 命だけは勘弁してください!!」


 私の惨めな姿を見て、悪役令嬢たちはクスクスと笑い出した。

 私がみんなを笑顔にしたんですか? に、人気者になっちゃいました〜。


「よって被告を有罪とし、協会からの永久追放を言い渡しますわ!」


「ええぇぇぇぇ!?!?!?!?!??!!??」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 お城に帰る馬車の中、私はずっとビクビクしてました。

 協会から追放されたなんてパパとママに知られたら、いったいどうなってしまうんでしょうか。

 立派な悪役令嬢にするために、毎日愛情を持って育ててくれた大好きなパパとママ。

 二人の悲しむ顔は、見たくありません。


「まあまあお嬢様、とりあえず笑顔ですよ! ね?」


 新人メイドのくっちゃん。私より3つ年上で、私の専属メイドです。


「他人事だと思って」


「これも立派な悪役令嬢になるためのステップですよ」


「いやだからもう悪役令嬢への道は閉ざされたんだよ!」


「あはは、相変わらず専属メイドにだけは強気ですね。だから協会から追放されたんじゃないですか? あはは」


 なに笑ろとんねん。


「あ、お城が見えてきましたよ!」




 私が城内に入るなり、パパとママが笑顔で出迎えてくれた。

 その脇に、メイド長のシェロンさんが立っている。


「おかえり、ラミュ」


「ハッハッハ、おかえり世界一可愛い悪役令嬢」


「た、ただいまです」


 あぁ、これが受験生の気持ちなのですね。

 志望校に落ちて浪人確定してしまい、家に帰って親の視線が気まずくなっちゃう受験生の気持ちなんですね。


「あ、あの、パパ、ママ、大事な話が……」


 私はビクビクしながら、すべてを語りました。

 話し終わるまで、二人ともニコニコしながら聞いていました。

 それが怖い。逆に怖い。非情な現実を受け入れていないんじゃないか。


「で、話は終わりです……」


 パパは私に近づくと、私の頬を撫でました。


「よし、この家から出てけ」


 え? え?


「ミジンコでももっと俺を喜ばせてくれるぞ。出てけ?」


「いや、あの」


 ママがため息を漏らしました。


「どうして悪役令嬢になれない子供を私たちが育てないといけないのかしら?」


「だ、だって娘ですし……」


「じゃあ親子の縁を切るわ」


「ま、待って、待って待って! チャンスをください! 普通の令嬢でも幸せになりますから!!」


「出ていくかお城の家具になるか選びなさい」


「家具、とは?」


「人体改造してタンスになってもらうのよ」


 実質死じゃんそれ……。

 ママ、そんな猟奇的な趣味をお持ちだったんですね。

 もしかしてこのお城の家具って実は……。いや、考えないでおきます。


「じゃ、さよなら」


「ちょっ!」


 ということで、警備兵を呼ばれて城から追い出されました。

 時は夕刻。もうじき日が沈みます。


「いったいなにがどうなってるんですかああああああ!!!!」


 こうして私は、『元』悪役令嬢になってしまっただけでなく、ホームレスお嬢様になってしまったのです。

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