1話
1998年 4月1日 東京のとある普通科高校。
名を「東京都立角城高等学校」
外装も内装もボロボロで白い塗装は黒ずみ、汚らしく、学校の中では雨漏りも所々見られる。
周りの高校の多くの制服はブレザーばかりなのにその高校だけ未だに学ランとセーラー服。周りの高校よりも少し遅れている感じがある。
その高校の2年A組に1人の転校生がやって来る。
転校生が来ることで2年A組はその話で持ち切りだった。
「転校生?こんなオンボロ高校に?」
「女かな?だとしたら〇末〇子似のかわいい子がいいなあ」
「イケメン来るかなぁ!?木〇拓〇みたいなイケメン来て欲しいかも〜」
「ないない、どうせ普通の子しか来ないよ」
「夢も希望も無いこと言わないでよ〜」
ガヤガヤと転校生の話で賑わう教室の中、ガラガラっと壊れかけの教室のドアが開いた。
ドアが開く音がした途端クラスメイト全員がドアを開けた者へと視線を向ける。
ブロンド色のコールドパーマに狐のようなつり上がった目をした学ラン姿の背高い少年がそこに立っていた。
「どーも、どーも。初めまして!」
その少年は関西弁訛りの言葉で挨拶し、ニコッと作り笑いのような満面の笑みを見せながら教卓の上へと上がり、黒板に「冬桜 佳倫」と縦書きでスラスラっと大きめの字で書いた。
「俺、冬桜 佳倫っていうねん。けったい名前やけど皆と仲良うしたいなぁって思ってるからよろしく〜!」
冬桜という少年を見るなりクラスメイト全体が不安な空気に包まれ、静まり返っていた。
作られているような笑顔も、その少年が醸し出している雰囲気も、話し方もどれも胡散臭く感じてしまい「何を考えているのか分からない、怖い」
という印象を多くのクラスメイトに与えていた。
───あ、ヤバい。
と冬桜は全体の空気を察し、それからは笑みを浮かべるのをやめ、自然な表情で口を開いた。
「趣味はスポーツ全般得意やから部活とかなんか誘ってくれたら嬉しいなって思うてる」
「あ、先生俺の席何処〜?」
冬桜は気さくに担任に話しかけ、指定された空いている席に座る。
すると、自分の前の席に1輪のスイートピーが生けられた花瓶が置いてあった。
担任は朝のホームルームで話をしてる中、冬桜は気になった様子で頬杖付きながら隣の席の女子に小声で話しかける。
「なあ前の席の奴、死んだん?」
「知らない。前のクラスの子にでも虐められてたんじゃないの?顔すら見たことないし名前も知らない。」
「へー始業式からいじめられるとかカワイソ」
冬桜は鼻で笑った後、隣の席の女子の顔をまじまじと見つめる。
「よう見たら、かわいいなあ」
「えっ」
「冗談」
吐息混じりの甘い声でそう呟かれ、女子生徒の顔は真っ赤になり呆然としていた。
そんな真っ赤になった顔をふふっと微笑み、女子生徒を見つめる。
決して冬桜は美形とお世辞には言えない顔であるが、その甘くエロスが溢れる口説き方をするが故にその女子生徒の心をときめかせた。
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放課後。
冬桜は荷物を纏め、クラスメイトの男子を誘って部活見学へ一緒に出向こうとしていたが担任から呼び止められた。
「すまない冬桜、転校初日のお前に任せるのは酷だが今日学校を休んだ子にプリントを届けて欲しいんだ」
担任はそう言って今日配られたプリントの倍近くある量のプリントや書類が入った分厚い茶封筒を冬桜に渡した。
「え、なんなん…これは……」
「冬桜の住んでいる家とそいつの住んでいる家が近いから部活見学帰りの時にでもいいから渡して欲しい。」
「ええ…なんで俺がこんなことせな……」
冬桜は不服そうに眉をしかめながら口をとんがらせる。
「先生はこの後会議やらなんやらで忙しいし、あいつの家には誰も行きたがらないんだよ」
「俺は誰もやりたがらへん雑用押し付けられたってことなん?パシリ?」
「後は頼んだぞ!冬桜!石蕗の家はお前の家の本当にすぐ近くだから!」
逃げるように担任は教室を後にし、冬桜は誘ったクラスメイト2人とダルそうな素振りを見せながら部活見学に向かった。
陸上部のグラウンドに向かう途中、冬桜はポロっと気だるく愚痴をこぼした。
「なんで俺が転校初日にどこに家があるかもよう分からん奴にプリント届けなあかんねん…」
「災難だなぁ。石蕗の家行かされるって最悪じゃん」
「先生も酷ぇこと転校生にやらせるよなぁ」
冬桜が落ち込んでいる中ケラケラと他の2人は嘲笑った。
冬桜は2人のその態度を見た苛立ちを抑えながら2人に尋ねた。
「石蕗やっけ?なんなん?そいつの家にどんな訳アリがあんの?」
「あいつの家ゴミ屋敷なんだよ。アパートのドアからめちゃくちゃゴミ溢れ出してるからすげぇぞ。」
「ドア、ずっと空いてんもんな!ゴミ退かさないと家入れねーし」
「それに蝿集っててめっちゃ臭ぇよなあ」
「もう石蕗死んでんじゃねぇの?」
「なにそれウケるんですけど」
「別に死んでてもどうでもいいけどな〜!」
アハハハハと2人は馬鹿笑いし石蕗の話で2人だけで盛り上がる。