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6.告白

 本日は昨日とは打って変わって快晴となり、気持ちも昨日よりは木漏れ日が差したように軽く感じます。昨日お嬢様と話した通り、私はいつもの、ありのままの侍女の姿で、お嬢様も空色の下地に白い蝶が飛び交うワンピース。私が刺繍したお気に入りです。

 折角だからと、お嬢様のワンピースを一緒に着ない? と誘われましたが、いつもの侍女の制服が落ち着くからとお断りさせて頂きました。ごめんなさい、お嬢様。我が儘言って。でも、やっぱり私は侍女だからこの姿が一番落ち着くのです。


 エリオ様とマクベス様が侯爵家の馬車で迎えに来てくれた。マクベス様が馬車から降りて、二人の手を順に取り、馬車に迎え入れた。馬車がごとりとゆっくりと動き始める。

 エリオ様とマクベス様が並び、エリオ様の正面にお嬢様、その横に私が座る。


「昨日は私が熱を出して申し訳ありませんでした。」

「アリーリア嬢、気にすることはない。元々、雨では行けないところだったから。」

「お心遣いありがとうございます。」


 昨日のことを謝罪すると、エリオ様が間を空けずに笑顔で答えてくれた。いつもの私なのに、変らず笑顔を向けてくれる。やっぱり素敵な人だ。


「今日は、どちらに連れて行って頂けるのかしら。」

「着いてからのお楽しみだな。」

「マクベス様は知っていらっしゃるの?」

「いや、知らないんだ。エリオ様は頑なに教えてくれなくて。」


 どうやら、エリオ様しか行先は知らないらしい。何を考えているのだろうか。


「シャリー嬢の今日のワンピースは素敵だね。刺繍の蝶が本当にどこかに飛び去って行きそうだ。」

「ふふふ、一番のお気に入りなの。アリーリアが刺してくれたのよ。」


 この刺繍は、私が最初にお嬢様に刺した物で、力作中の力作なので、素直に褒められてとても嬉しい。思わず顔がにやけてしまい、ハッとしてエリオ様を見ると、目が遭ってしまって、さらに恥ずかしくなった。

「凄いな。いつもは、あまり刺繍なんて気にしたことはないが、俺でも息を飲むほどだ。とてもシャリー嬢に似合っている。」

「あら、マクベス様、刺繍も褒めて、私も褒めてくれるなんて嬉しいわ。」


 マクベス様を見ると、こちらも赤くなっていた。思えばマクベス様が、誉め言葉を口にするのは珍しい。

 話しているうちにどうやら、目的地に着いたらしく馬車が止まった。


「降りようか。」


 エリオ様の一言で馬車のドアが開き、またマクベス様が、私とお嬢様をエスコートして降ろしてくれる。


 降りた瞬間、感嘆の言葉が漏れた。開けた場所一面に、青、白、ピンクの芝桜が咲き誇っていた。芝桜の絨毯の中央に人二人並んで歩く道があり、それが途中二股に分かれ、それぞれの先に木が一本ずつ立っていた。昨日の雨の水滴が芝桜に僅かに残り、日の光を浴びて更に煌いていた。


「「綺麗~!」」


 あまりの素敵な景色でお嬢様と二人で声が重なり合う。


「じゃ、いこうか!」


 ん? 何故かエリオ様が私の手を取り歩きだした。お嬢様はマクベス様に手を出して、マクベス様も顔を赤くしながら手を取った。女性に免疫ないのだろうか。馬車の中でも顔が赤かったし。

 いや、いや、いや、それよりも何故? エリオ様が私の手を握っているの? それも指を絡ませてる!? マクベス様のこと言えない。私も耳まで熱い。


 チラリとエリオ様を見上げると、ニコニコしていつもより楽しそうだ。良かった? そんなことを考えていると、目が遭った。


「駄目だ!可愛い......。」

「え!?」

「いや、上目遣いはずるいよね。」

「ずるい?」


 ど、どういうことなの? 可愛いって言った。いや、いや、いや、聞き間違いよね。 狡いってどういうこと? 握っている手が緊張で汗ばんでないかな。う、嬉しいけど、恥ずかしい。心拍がバクバクと早鐘を打って、緊張で心臓が張り裂けそうだ。


 二股に分かれるところで、エリオ様が立ち止まる。

「ここはね。友情の丘とか別れの丘って呼ばれてるんだ。」

「友情? 別れ?」

「あの二本の木のように道は違えど、お互いに見ているってことらしいよ。だけど、男女でそれぞれの木に行くってことは、別れも意味するらしい。」


 エリオ様がこの場所の由縁を説明してくれた。どういう意味なのだろうか。ここで私達は別れるってことだろうかと。でも、わざわざそんな由縁の所に女性と来るだろうか。


「僕たちは左に行くから。」


 後ろの二人に声を掛け、私達はそのまま、左の道を歩く。後ろを見ると、お嬢様とマクベス様は右へと判れる。


「あれ? 別れちゃんですか?」

「うん、そうだね。」


「え? いいんですか?」

「うん、そうだね。」


「どうしたんですか?」

「うん、そうだね。」


 珍しい。エリオ様が心ここにあらずの状態なんて。今日のエリオ様ってなんか変。こんないい景色なのに。二人と別れたことが、ここの由縁と関係がある?


 木の根元でピタリとエリオ様が背を向けたまま、足を止めた。一拍置いて、見つめられた。

 真っ直ぐと真面目な顔で。ごくりと喉がなる。


「アリー、好きだ! い、いや、すまん。」

「え? ......どういうことですか?」

「い、いや違う! どうも、緊張してるみたいだ。会っていたのにずっと名前が呼べなかったから。先程からアリーリアと名前を呼ぶだけで嬉しくて。」


 慌てているエリオ様を初めて見て、こちらの方が落ち着いてきてしまい、可笑しくなってクスクスと笑いだしてしまった。そうだ、入れ替わってる最中に『シャリー嬢』とは一言も言ってなかった。だから、私も入れ替わっているのにお嬢様と入れ替わっていると完全には思えず、自分の気持ちが入ってしまっていた。そう思った瞬間、あれ?っという想いが心の中を占める。


「アリーリア嬢、君に辛いを想いをさせたようですまなかった。まずは私の話を少し聞いて欲しい。」

「はい。」


 話の内容はこうだった。

 事の始まりは、私がお嬢様に作った買い物の地図。その地図を作った者にエリオ様が興味を持った。そして、お嬢様の侍女だとわかり、会ってみたいとのことで、エリオ様がお嬢様を誘う形で私とマクベス様も連れて、デートという形になり、話をしているうちに私に何故だか惹かれたのだという。


「最初は本当にこの地図を出掛け前の数分で作ったということに興味を持ったんだ。でも、それは単なる切っ掛けで、話を聞けば聞くほど、会えば会うほど惹かれていた自分にも驚いた。」


 学園卒業すると接点が無くなり、会えなくなるため、お嬢様に相談したところ、今回の『入れ替わり』を提案されたのだという。そしてお嬢様の見返りがマクベス様と会える時間を作ること。

 そして夜会や茶会で入れ替わった私とエリオ様が、お嬢様とマクベス様が会える状況を作った。


 エリオ様もこの二組が婚約できる状況を作るために卒業してからの一年必死だったという。

 自分が宰相候補になり、親から認められること。

 私をアリーリアだと話した後、夜会や茶会で侯爵の妻として問題ないことを侯爵夫妻、王太子や公爵令嬢に認めてもらうこと。


「貴女とマクベスを騙す形にはなってしまったが、私達が婚約するにはこうするしかなかった。」

「しかし、平民と侯爵子息や伯爵令嬢では身分が違い過ぎます。」


「そう、だから、マクベスを自分の右腕として周囲に認めさせて、侯爵が持つ男爵位を授与することと、先日伯爵と話し、アリーリアを伯爵の養女にすることをお願いした。これで伯爵家にはマクベスが婿入り、侯爵家には伯爵令嬢が嫁入りという体裁は整う。」


 無茶苦茶だと感じて、呆気にとられた。お嬢様も思い付きによる行動派だが、エリオ様は計画的な行動派と言った感じに聞こえる。

 それにしても、お嬢様まで主犯で御存知だったとは、後で問い詰めなければ! 許すまじ!?


「そして、爵位の件については、まぁ今日の告白の結果に掛かっている。アリーリア嬢とマクベスが私達のそれぞれの告白に同意してくれるかどうかだ。」

「二人とも、無茶し過ぎですよ......。」


 もう、涙が零れていた。愛おしくて、嬉しくて、我慢していたものが心から溢れるように。



「アリーリア、愛している。私と婚約し、結婚して欲しい。一生、貴方一人を愛すると誓う。」



 嬉しい。自分が壁と感じていた身分差を払拭し、一年もの間、頑張ってくれていたことが。そして、私をずっと視て愛していると言ってくれたことが、何より嬉しかった。



「はい。私もエリオ様が好きです。愛しています。エリオ様を支えさせてください。」

「ありがとう。アリーリア。」



 言葉を紡ぐと二人で抱き合い、永い口づけを交わした。


 そうそう、当然ですが、お嬢様とマクベス様も抱き合っていたのを目の端で捉えていたのは言うまでもないですかね。これからはお嬢様の歩く道とは、別の道をお互いに愛する人と歩むのですね。

 ありがとうございます、シャリーお嬢様。


-fin-

なんとか、今日も投稿できました。

そして、今回で最終話となります。

最後まで読んで頂いた読者様、ありがとうございます。

如何でしたでしょうか。

ほんのりして頂ければ、嬉しいです。


最後にポチっと評価をして頂けると今後の励みにもなるので、

宜しくお願いします。

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