酩酊戦隊ストロングレンジャー! 完結編
「バッッッカやろうどもがっ!」
悪態をつきながら次々とタイムカードを打刻してゆく男!
おお……なんという悪魔的光景であろうか! この男は、定時になった瞬間に部下全員のタイムカードを勝手に打刻しているのである!!
「殺して……殺して、やる!!」
吹き荒れる、書類の嵐!!
ストロングブラックこと、黒木勤は叫ぶ!
この繁忙期に、営業のやつらは無茶苦茶な納期で仕事を押し付けてきてロングバケーション!! 理不尽!! 営業の今年のボーナス増額!!!
「黒木さん、ぶっちゃけ、イケるっしょ!」
爽やかに言ってハワイへ飛んだ同僚の惨たらしい死をお祈りする正義のヒーロー、ストロングブラックは今日も社畜! 現場主任!
名ばかり管理職!!
プープープー、エマージェンシー、エマージェンシー、メーテー、メーテー、メーテー
腕に装着したストロングデバイスが仲間のピンチを告げる!
「助けにいけるわけ……無いだろうがっ!」
現場の若手が二人、飛んだ。ある日発狂して逃げ出してから帰ってこない。最近の若い奴は本当に堪え性がない。ストロングブラックは嘆く。
人が足りなければ自分がやるしかない。残った部下も道連れだ。今月も1日も休めなかったな、連勤記録更新中だな、死にたいな。危険! 思考のデスループ!!
【コンプライアンス遵守!】
【30分前には出勤して仕事の準備!】
【タイムカードを押すのは楽しいです!】
【やりがい!】
【奉仕の心!】
タイムカード周辺の壁に張られた社長直筆のありがたい言葉の数々! 欺瞞!!
一方その頃!
酩酊戦隊ストロングレンジャーは悪の怪人スイソスィの前に屈辱の敗北を喫していた!
「くそぅ、くそぅ、どうして誰もスイソスィ・ウェイのメンバーになってくれないんだ……」
レッドが血走った目で片っ端から知り合いを勧誘! こんな奴、友達になりたくない!!
「すまん、緊急入院になった。肝臓の数値が高すぎるらしい。俺はもうダメ、だ……」
イエローはそう言って病院のベッドで熟睡!
「参った、俺達の絆がボロボロだ。酩酊戦隊史上最大のピンチだ」
ブルーが顔を青くして嘆く。
「一体どうしたらいいのかしら?」
ピンクはスマホをポチポチやっている。灰皿にタバコの吸い殻が山積み。ピンクはチェーンスモーカー!!
「こんな時、ブラックの奴がいてくれたら」
「諦めなさい。アイツは地球の平和のことなんか考えてないのよ。あっ、ごめんなさい、私ももう行かなくちゃ」
「おい、まさかこんなピンチの時にキャバクラ勤務か!?」
「当たり前でしょ? チビ達を一人で養ってるのよ」
なんと、ピンクはシングルマザー! 二児の母!!
「じゃあね、何かあったら教えて」
ピンクが戦線離脱!
「かぁ~、今度ばかりはさすがにハードだぜ」
ブルーはテレビをつける! 通販番組!
“この水素水、本当に活きがいいですね!”
“三陸沖で獲れた新鮮なものを船の上で! 急速冷凍! だから旨い!”
ザッピング。
“今、若者に大人気、表参道の水素水カフェにやってきました~!”
“あっ、行列が出来てますね。早速インタビューしてみましょう!”
ザッピング。
“全米が泣いた!”
“水素水、サイコー!”
ブルーはリモコンを壁に叩きつけた! クラッシュ!!
悪の怪人スイソスィは既にメディアを掌握していた。かつてないほどの強敵!
「どうする? 俺達は一体どうしたら……」
「おいブルー! 絶対に儲かる儲け話があるんだ! 聞いてくれブ」
レッドを殴り飛ばして、ブルーは深い溜め息をついた!!
SNSを確認する。そこには恐ろしい光景!
“スイソスィのお年玉100万円プレゼント”
悪の怪人スイソスィは、人々から巻き上げた金をばらまき薄汚い自尊心を満たしているではないか!
“修学旅行に行きたいので100万円ください”
おお! クラス全員で土下座する学生達の写真! これこそ貧富の格差! アベノミクス!!
それだけに止まらない!
悪の怪人スイソスィは巨乳のアニメキャラとコラボして献血キャンペーン実施! 献血量に応じてここでしかもらえない限定ノベルティ配布! オタクの血液が搾取! フェミさんが発狂! 炎上マーケティング!!
「なんて奴だ……この国を、焦土にするつもりか!?」
ブルーは戦慄した。
「レッドは戦闘不能……っていうか絡みたくない。イエローは緊急入院。ピンクはキャバクラ。ブラックは……繁忙期だ。俺しかいない」
だがブルーひとりで何が出来ようか!?
「いや……待てよ……」
SNSを再度確認する。
「土下座……そうか、その手があったか!!」
突如、ブルーに閃きが走る! ブラックが勤める『ガンバルマン商事』へ突撃!
「おい、ブラック!」
「何だよ、ブルー。見ての通り俺は忙しい。さっさと帰ってくれ」
「そんなこと言ってる場合か!? 世界のピンチなんだぞ!」
「俺は仕事の進捗がピンチだ!」
「まぁまぁ、ちょっと耳、貸せよ」
ゴニョゴニョ。ブルーが小声で何かを囁く。
「ま、マジか!?」
「どうだ、ブラック。俺と、悪の怪人退治に行く気になったか!?」
「くっ! 俺の負けだぜ! 案内しろ!」
ブラックは帽子を脱ぎ捨てて後ろを向き、大声で言った!
「終わりだ終わりだ! もう今日の仕事は終わり! みんな勝手にしろー!」
数時間後!
「はっはっは! このスイソスィ様にリベンジしようというのか!? 面白い!」
夜の大谷石採石場! お馴染み!
「もはや今の俺様は某国大統領とも昵懇の仲! 俺様がゴーサインを出せば核ミサイルすら飛ばすことが出来る!!」
「ふっ、そうか。そりゃあ凄い。だがな……今日はお前と争いに来たのではない」
ブラックはしゅるりとネクタイをほどいて捨てた。
「ほほぅ、では何の用だ? 敗北を認めるというのか?」
「あぁ、その通りだっ!!」
ズザーッ! 猛烈なスライディングから美しい土下座を繰り出すブラック!! パーフェクト社畜の彼にとって土下座など朝飯前!! 誰よりも美しく、申し訳なさそうな土下座が決まる!!!
「100万円のお年玉、俺にも下さい! 社長っ!!」
「がははっ! なーんだ、そんなことか! ならばこの俺様の靴を舐めろ! ピッカピカに磨きあげることが出来たら、100万くらいの端金、くれてやろう!」
が、スイソスィは知らなかった。彼は油断していた。
土下座とは本来、獣が獲物を狙う際に地に体を低く伏せた形を模倣した古武術における構えの一種。雌伏の型、なのである。民明書房にもそう書いてある!
「バカがっ! 隙だらけだぜぇ!!」
地を蹴って飛び上がったブラックの拳がアッパーの要領でスイソスィの股間を直撃!
ぐっちゃあっ!!
大切なところを破壊! 残酷! ブラック戦士ならではの苛烈な必殺技!
「ぐえぇーっ!」
スイソスィは爆発四散した!
「カンパーイ」
勝利のストロングゼロの味は格別である。
「な、言ったろ? お前の土下座拳で倒せるってな」
ブルーは頼れる仲間の肩を叩き労う。
「あぁ、これでスイソスィの悪徳商売の利権は全て俺達のものだな!」
ブラックが、懐からタイムカードを抜き出してビリビリに破り捨てる! 夜の大谷石採石場に紙吹雪! 風流!!
勝利の味を噛み締め、男達は笑う!
こうして世界の平和は守られたのである!
ありがとう、酩酊戦隊!
ありがとう、ストロングレンジャー!!
完!
ストロングゼロ要素、どこいった!!?
でも、これでいいのだ!!