6 溶ける
「グラス! どこに行っていた!」
グラスがお城へ帰ると、父親のフロストが勢いよく部屋の扉を開けました。
「ち、父上。これは」
グラスはとっさにマフラーを隠します。トネールにマフラーを買ってもらったことを知られたら大変です。
「どうして、また人間界に行っていた」
「マフラー……。いえ、その、好きな子に」
「何?」
フロストの眉間のシワが深くなります。グラスは深呼吸をして、正直に言いました。
「ボク、人間界に好きな人ができたんです。その子のためにマフラーを買いに行きました。……お金は、トネール兄様に……」
「……そういうことだったか」
フロストは頭を抱え、また考え事をし始めました。グラスは何も言えず、うつむくことしかできません。
「……昔、私もお前のように隠れて人間界に行った時があった。お前と同じように一目惚れをしたが、思いを伝えずにそのまま帰った」
「関わってしまえば、どちらの世界にも迷惑がかかると思ったからだ……だが、お前は違う」
「グラス、今までのことを許そう。自由に人間界へ行ってもいい」
「それは本当ですか……!」
思わぬ言葉にグラスは立ち上がります。すると、フロストは微笑んで優しく頭を撫でて言いました。
「あぁ、親は子の行く末を見守るのが仕事だ。……今までの私が厳しすぎた」
「ありがとうございます、父上!」
グラスは怯えることなく、心からの笑顔を見せました。
*
翌日、さっそくグラスは人間界に行きました。記憶を頼りに、日和と出会った場所にたどり着きます。
「えっと、確かこの辺りに……」
「お~い、グラス~!」
少し離れたところに、日和が手を振っていました。下校時間なのか、前と同じ制服を着ています。
「日和……! 元気そうで何よりです」
「うん、私は元気だよ~。グラスと会うの久しぶりだね」
「あ、あの。実は、日和に渡したいものがあるんです」
「ん、なあに?」
「う、受け取ってください!」
グラスは後ろ手に隠していたマフラーを、日和に渡します。ラッピングも、お店ではなく自分で心を込めて包みました。
「わぁ……! 私のためにプレゼントしてくれたの? 嬉しい!」
日和はラッピングを丁寧に開けると、マフラーを見て目をきらきらさせました。
「すごい、マフラーだ……! グラス、ありがとう!」
「……えっと、日和。ボクはあなたに、言いたいことがあります」
改めて、グラスは日和の目を見て言いました。
「あなたと初めて出会った時、ボクは日和のことが好きになりました。よ、よかったら、ボクとお友達になってください!」
「もちろん、友達になるよ。それに……私もグラスのこと、好きなの」
しばらくして、グラスは日和に告白されたのだと気づきました。こんなことは初めてで、テンションがおかしくなりそうです。
「ひ、日和……!? これは、あの」
「私たち、両思いだったみたいだね」
恥ずかしさと嬉しさで溶けてしまいそうなほど、グラスの顔が真っ赤になりました。
この幸せは何物にも変えがたい、とても素敵なことだと気づくのは、グラスがもう少し大人になってからでした。
これにて、若き氷の王子様は完結です! ありがとうございました 2020.1.14