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6 溶ける

「グラス! どこに行っていた!」


 グラスがお城へ帰ると、父親のフロストが勢いよく部屋の扉を開けました。


「ち、父上。これは」


 グラスはとっさにマフラーを隠します。トネールにマフラーを買ってもらったことを知られたら大変です。


「どうして、また人間界に行っていた」


「マフラー……。いえ、その、好きな子に」


「何?」


 フロストの眉間(みけん)のシワが深くなります。グラスは深呼吸をして、正直に言いました。


「ボク、人間界に好きな人ができたんです。その子のためにマフラーを買いに行きました。……お金は、トネール兄様に……」


「……そういうことだったか」


 フロストは頭を抱え、また考え事をし始めました。グラスは何も言えず、うつむくことしかできません。


「……昔、私もお前のように隠れて人間界に行った時があった。お前と同じように一目惚れをしたが、思いを伝えずにそのまま帰った」


「関わってしまえば、どちらの世界にも迷惑がかかると思ったからだ……だが、お前は違う」


「グラス、今までのことを許そう。自由に人間界へ行ってもいい」


「それは本当ですか……!」


 思わぬ言葉にグラスは立ち上がります。すると、フロストは微笑んで優しく頭を撫でて言いました。


「あぁ、親は子の行く末を見守るのが仕事だ。……今までの私が厳しすぎた」


「ありがとうございます、父上!」


 グラスは怯えることなく、心からの笑顔を見せました。




 翌日、さっそくグラスは人間界に行きました。記憶を頼りに、日和(ひより)と出会った場所にたどり着きます。


「えっと、確かこの辺りに……」


「お~い、グラス~!」


 少し離れたところに、日和が手を振っていました。下校時間なのか、前と同じ制服を着ています。


「日和……! 元気そうで何よりです」


「うん、私は元気だよ~。グラスと会うの久しぶりだね」


「あ、あの。実は、日和に渡したいものがあるんです」


「ん、なあに?」


「う、受け取ってください!」


 グラスは後ろ手に隠していたマフラーを、日和に渡します。ラッピングも、お店ではなく自分で心を込めて包みました。


「わぁ……! 私のためにプレゼントしてくれたの? 嬉しい!」


 日和はラッピングを丁寧に開けると、マフラーを見て目をきらきらさせました。


「すごい、マフラーだ……! グラス、ありがとう!」


「……えっと、日和。ボクはあなたに、言いたいことがあります」


 改めて、グラスは日和の目を見て言いました。


「あなたと初めて出会った時、ボクは日和のことが好きになりました。よ、よかったら、ボクとお友達になってください!」


「もちろん、友達になるよ。それに……私もグラスのこと、好きなの」


 しばらくして、グラスは日和に告白されたのだと気づきました。こんなことは初めてで、テンションがおかしくなりそうです。


「ひ、日和……!? これは、あの」


「私たち、両思いだったみたいだね」


 恥ずかしさと嬉しさで溶けてしまいそうなほど、グラスの顔が真っ赤になりました。


 この幸せは何物にも変えがたい、とても素敵なことだと気づくのは、グラスがもう少し大人になってからでした。

これにて、若き氷の王子様は完結です! ありがとうございました 2020.1.14

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