4 うっかり再び
「よし、転移できた……! 良かったぁ」
グラスは再び人間界に来ました。桜宮からもらった手袋も、なくさず身につけています。
「日和はどこでしょうか」
グラスは辺りを見回しますが、人が多すぎてどこにいるのか分かりません。
周りの人たちはグラスをちらりと見るだけで、優しく手を差しのべることはありませんでした。
「うぅ、人間界は人が多すぎるし、何より冷たいです……」
「でも、ボクが頑張らなくちゃ」
弱音を吐いてばかりではいけません。グラスは変装用の帽子を被って都会の街を歩きだしました。
***
「ねぇ見て、あの子かわいい~」
「ホントだ、外国の子かな?」
グラスにとって誰かに噂されたり、見られることは苦手です。視線を気にしながら歩くのも疲れてしまいます。
「な、泣くなボク。泣いちゃダメだ。ボクは日和に会わないと……」
「――あっ」
グラスは大事なことを忘れていたのです。『約束』とはまた違う、大事なこと。
「そうだ、手袋をもらったお礼に、日和に恩を返すんでした……!」
「どうしよう。まだどういうお礼か決めてないし……」
グラスは悩みに悩んだ結果、一つのアイデアが思い浮かびました。
「マフラー……とか。うん、『おくりもの』にはぴったりです」
アイデアが決まれば、後は行動するだけです。グラスは駆け足でお店へ向かっていきました。
「いらっしゃいませー」
どこか大人な雰囲気で、オシャレで清潔そうな雑貨屋さんにグラスは足を踏み入れます。
お客さんも女の人が多く、入ってきて良かったのかと心配になります。
「お客様」
「ひゃっ!?」
「驚かせてしまい、申し訳ありません。当店へ来るのは初めてでしょうか」
「は、はい。初めてです」
女の人の店員さんはにっこりと微笑み、グラスに優しく言いました。
「でしたら、こちらの香水などはいかがでしょう。気分もリラックスできますよ」
「え、えと。香水も素敵なのですが、あの……。マフラー、とかないでしょうか……?」
「そういうことなら、こちらに」
「あ、ありがとうございます」
店員さんが仕事に戻ったのを確認すると、グラスはマフラーを余すことなく見ていきます。
「う~ん……。日和に似合いそうなのは……」
「迷います……」
かれこれ迷い続けて一時間。ようやく決まったのは、もこもこの白いニットマフラーを手に取りました。
「やっと決まった……! あとは買うだけ…………あっ」
変な汗をかいているのが自分でもよく分かります。グラスはマフラーを元の場所に戻して、お店の外へ出ます。
「ボク、この世界のお金持ってないです……!!」