3 親子
誰もいないグラスの部屋に魔法陣が現れて、光と共にグラスが帰ってきました。きちんとお城に戻ることができたのです。
「帰ってこれた……」
嬉しさが混じったため息を吐いて、グラスは肩を撫で下ろします。
「良かった……これ以上、お城の人達に迷惑をかけたらどうなっていたか」
魔法の練習で使っていた本を片付けながら、そんなことを呟きます。
「でも、お友達ができたのは嬉しいです」
グラスはベッドの上に寝転んで、日和のことを思い出しました。日和はかわいくて優しくて、一緒にいると心がぽかぽかして。
「……幸せだなぁ」
日和のことを考えると、自然と笑顔になって楽しくなります。明日が待ち遠しくて仕方ありません。
グラスは満ち足りた気分のまま、広いふかふかのベッドで眠りにつきました。
***
翌朝、グラスはいつも通り早起きして魔導書を読んでいました。その時、誰かが部屋のドアを叩きます。
「私だ。入るぞ」
「……ち、父上」
ブラン王国の王様でありグラスの父親、フロストが入ってきました。
フロストは城の誰よりも背が高く、めったに笑わないのでグラスや周りの人から怖がられています。
「昨日の朝、人間界に行ったというのは本当か。従者から報告があったぞ」
「あ……え、えっと」
グラスはフロストの目が怖くて下を向いてしまいます。ですが、勇気を振り絞ってなんとか答えました。
「い、行きました。人間界に」
「……そうか」
フロストはため息をつき、何か考えているようでした。グラスは何を言われるか分からない、この時間が苦手です。
「グラス、人間界には行くな。昨日は運が良かっただけで、たまたま何もなく済んだんだ」
「……で、ですが」
「私はお前のことを思って言っているんだ。母上も心配している」
「母上が……」
グラスの心がきゅうっと締め付けられました。グラスは自分の思いを口に出そうとします。
「父上、ですが」
「分かってくれ」
グラスとフロストの言葉が重なって、不幸にもグラスの声は聞こえなくなります。
フロストはグラスの頭を不器用になで、王室に帰ってしまいました。
「父上……」
その時です。桜宮からもらった手袋が、独りでにグラスの頭へ乗りました。
「これは、日和からもらった……」
グラスが手袋をつけると、頭のなかが桜宮のことでいっぱいになりました。魔法をかけられていないのに。
「そういえば、日和と約束していました!」
「でも、父上に行くなって言われてますし……」
こういう時、どうすれば正解なのかグラスには分かりません。けれど、自分のなかで心は決まっています。
「ち、父上に怒られてもいいから、ボクは人間界に行く……! 謝って話し合えば、きっと大丈夫です……!」