2 出会い
「う……ここは――人間界!?」
グラスが目を覚ますと、そこには見たこともない世界が広がっていました。高すぎる鉄の建物に白い線がひかれた大通り。人の多さにどこを見ていいのか分からなくなります。
「ま、間違って転移した……!? これじゃあ『うっかり』で済まされません! また父上に叱られてしまいます……!」
グラスの心はパニックと恥ずかしさでごちゃ混ぜになります。城の人たちにただでさえ迷惑をかけているのに。
「あわわ、今度こそ一生外出禁止になっちゃいます……!」
「あ、あのー」
「ひゃあっ!?」
「あの、大丈夫?」
グラスの前に女の子が声をかけてくれました。深い色の茶髪に制服を着ていて、グラスと同じぐらいの年齢に見えます。
「ええとその……はい、すみません。迷ってしまったんです」
「そっか、じゃあ私が案内してあげる。名前はなんて言うの? 私は桜宮日和。よろしくね」
「ボクはグラス・フリーレンです。こんななりですが、ブラン王国の王子です」
王子と聞いて普通なら警戒するはずなのに、日和は頬を緩ませてうっとりします。
「王子様!? すごい、本物の王子様なの!? カッコいい……」
「か、カッコいいでしょうか?」
「もちろん! ねぇ、王子様ってことは別の場所に住んでるの? どんなところ? 料理も豪華だったりする!?」
「え……。え、えっと」
グラスの頭はこんがらがってパンクしそうになりました。そんな時は深呼吸をして一つずつ質問に答えます。
「ボクはこの世界とは別の世界に住んでいます。特にボクが住んでいるお城は、とっても寒いです。料理は豪華ですが、ボクの口には合いません」
「は――へくちっ。うぅ、寒い……」
グラスは可愛らしいくしゃみをしました。誰かに睨まれているような気がするのです。
「最近寒いもんね。はい、これあげる」
日和はポケットの中から真新しい手袋を出してグラスに渡しました。
「え、いいんですか? 日和の物なのに」
「いいのいいの。新品だし、家に何個かあるから」
グラスに今まで感じたことのない、特別な感情が伝わっていきます。『おくりもの』なんて滅多にもらったことがありません。
「あ、ありがとうございます! このご恩は必ず返します……!」
「じゃあ、また会いに来てくれる?」
「はい、絶対に来ます……!」
グラスも笑顔を返して日和と手を振ってお別れをしました。また会う日が楽しみです。
「アニムス、起動。テレポート」
人がいない路地裏で、今度こそグラスは城に帰ります。日和の笑顔と優しさを思い出して、グラスの心は暖かくなるのでした。