1 うっかりヘタレ王子様
初めて公式企画に参加します…! 2019.12.26
寒くて凍りそうなブラン王国のお城に、一人の少年が目を覚ましました。ストレートの銀髪に青い瞳の、グラス・フリーレンという王子様です。
「おはようございます、小鳥さん。今日はいつもより暖かいですね」
グラスは曇る窓から顔を出した小鳥に挨拶をしました。王子たるもの動物に優しくするのは当然です。
「そんなに変わらないって? ふふ、ここはいつでも寒いですからね。今日も暖かくしてくださいね」
グラスが小鳥の頭を撫でると、満足そうに小鳥は巣へと旅立って行きました。グラスは小鳥を見送ると、手と顔を洗って身支度を整えていきます。
体の芯から冷たくなる水を浴びると嫌でも目が覚めます。お湯を使いたいところですが、ここは我慢して冷たいままにするのです。
「次は朝ごはんですね」
グラスは魔法で机の上に丸いパンとホットココアを出現させました。グラスの家は魔術師の中でもとびきり強く、特に氷の扱いが上手なことで有名です。
「いただきます」
食べ物の恵みには感謝を忘れません。グラスはきちんと手を合わせてから上品にご飯を食べました。
「ごちそうさまでした」
食べ終わったあとはコップを洗い、食器棚に置いておきます。その後は魔法の練習です。
「よし。やりますか」
グラスの部屋にある本棚は、魔法について書かれている魔道書で埋め尽くされています。グラスはその中から二、三冊選んで魔法の準備をします。
途中、本が重くて転びそうになりましたが、なんとか持ちこたえて立ち上がりました。力がない王子だと笑われてはたまりません。
「えっと、今日は氷で兎さんを作る……んですよね。上手くできるかな……」
「ううん、不安になっちゃダメだ。ボクは王子なんだから」
グラスは意識を集中させて、頭の中で兎を強くイメージしました。体の内側から魔力を注ぎ込ような形です。
「――アニムス、起動。魔力拡張……展開」
詠唱と共に魔法陣が現れました。アニムスは言わば魔力のスイッチです。
グラスは深呼吸して不安で泣きそうな心を落ち着かせます。
「ソウル連結、解除」
体のたがが外れるのが自分でもよく分かります。ここまで来ればもう逃げられません。
「氷よ息吹け、ライフ・ヒースヒェン!」
「……あれ? 詠唱はちゃんとできたのですが」
今日の詠唱は完璧でした。ですが、兎が跳び跳ねるどころか何も起きません。
「おかしいですね……。そんなはずは」
「ッ!?」
突然光が弾けて視界が真っ白になります。とてつもない力で引き寄せられて、体ごと持っていかれそうです。
「引っ張られる――!?」
グラスは不思議な力に流れ、知らない世界に飛ばされてしまいました。