閉幕 そしてEXTRA
「ところで石上君、君はこの大会で優勝した。優勝した君にはこの学校のカーストの頂点に立つ権利と、もう一つ、与えられるものがあることは知っているかい?」
校長は石上の顔を覗き込みながらこう問うた。
石上はそんなことは初耳だとばかりに驚きを隠せずに、勢い込んで質問した。「他にも何かあるんですか!?」
校長は実に愉快だとばかりに「ほっほっほ」と軽快に笑い声をあげた。「わたしに挑戦する権利だよ。」
校長のこの言葉に石上はまたしても驚いた。それと同時に少し拍子抜けもした。そんなことかと。だが、校長は続ける。
「まあ、気を落とすでない。
実はわたしはこの学校で一番ジャンケンホイホイが強いんだよ。なぜなら三十年前、まだ小学五年生だったか・・・。わたしはこの大会で優勝したんだ。そして当時の校長先生をじゃんけんで倒して、この学校の校長になったんだ。
つまり、君が私と闘って勝ったならカーストの頂点に立つだけでなく、この学校の校長先生になれるのだよ。」
石上は仰天した。まさかそんなことがあるとは!? 石上は二週間前に転校してきたばかりで、実のところそこまでこの学校に詳しいわけではなかったのだ。
その分、この知らせをきいた時の驚きと興奮は人並みをはるかに上回った。なにせ石上の求めてきた更なる強敵との闘い、カーストどころか学校そのものを自由自在にできる権力を、校長に勝てば手に入れられるのだ。
「ぜひ、ぜひやりましょう!」
石上は校長に挑戦することを望んだ。そんな石上に応えるように校長も真摯な笑顔で石上との勝負を受け入れた。
石上は負けた。
しかし、彼は落ち込んではいなかった。
校長との三十二手にも及ぶ決戦は、彼に幸福と充実感を十分にもたらしていた。
それに、校長に負けたからとはいっても明日からは自分がカーストの最上位になることに変わりはない。席替えの場所を自由に決めたり、給食を残しても怒られなかったりの自由自適な学校生活が待っている。
そして石上は玄関につくと「ただいま」と言って家にあがる。リビングからは母の声。
「ハサミ、今日のテストの点数は?」
そそくさと真っ先に自室に向かう石上ハサミを彼の母親は貫禄のボディーで引き留めた。しぶしぶそれらを見せる石上。紙に書かれた数字は0,0,0である。
「こら~!!」
う~ん、明日からはこれもごまかせるかもしれない。そう思いながらも今は母親の説教を受けるしかないか・・・。
石上はがっくりうなだれた。