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決勝! ジャンケン大会!!

 ジャンケンホイホイとは、二度の「ホイ」のかけ声で二つの『手』をだし、「どっちだすの」でどちらかの『手』を選択して行う特殊なジャンケンである。【ウィキペディア☆】

 ここ、無天小学校ではこのジャンケンホイホイの強さでカーストの順位まで決められてしまう大会がある。そしてそれがいま、催されているのである。

 そう、まさにいまこそが決戦のときなのだ。


―――――じゃんけん大会 決勝戦

 教室の真ん中には二人の児童が向き合っていた。

 一人は石上ハサミ。小学二年生にして、じゃんけん大会決勝にまで進出した切れ者である。

 もう一人は桐峯さくら。小学六年生の女の子でとても可愛らしい見た目なのだが、試合になると氷のように冷たい目線で猛者を凌いで決勝にたどりついた、こちらも切れ者である。

 このふたりを大きく囲む机を隔てて、押し寄せ観戦しようとする者たちもいる。無天小学校の全校生徒、あるいは教職員、果ては近所のおじちゃん、おばちゃんである。


 大勢に見守られるなか、石上ハサミは口を開く。

「ふっふっふ・・・。やっとだ・・・やっとこのときが来た。桐峯さくら・・・俺は必ずお前に勝つ!」

 石上は普段、小学二年生のくせに性格がひねくれているのを自覚しているため心の声を表に出さず優しく気弱に取り繕っているところがあった。

 しかし、いまの石上は先ほどの準決勝ですっかり気持ちが高揚してしまっていて、取り繕うのをわすれてしまっていた。つまり、心の声が駄々洩れなのである。

「きみ、そんなせいかくだったの? なんかイメージと違うわね。もっと謙虚だと思ってた。」

 突然朗らかに話しかけてきた桐峯さくらのこの言葉に、石上はかなり動揺した。それと同時に身に改めた。

(お・・・俺としたことが・・・。すっかり油断してしまっていた・・・。

 そうだ、試合はもう始まっている。こんなことじゃ試合でも足元をすくわれていまうぞ!」

 石上は気を持ち直すとそっとまぶたで目を覆う。そうして気持ちを落ち着かせると、じっと相手の瞳を見つめる。

「そちらこそ、そんな煽りをしてくる人だとは思いませんでしたよ。」

「? ふふっ、お互い楽しく闘いましょう♪」

 桐峯さくらは柔和な笑顔で受け流すと一変、冷徹な表情で石上を見つめた。臨戦態勢だ。


「ふたりとも、準備はできたかな?」

 両者のちょうど真ん中に立つ男の問いにふたりは「うん」と頷いた。すると男は声をあげる。

「決勝戦! 石上ハサミ 対 桐峯さくら! はじめ!!」

 たったいま、決勝の火蓋が切って落とされた。

(桐峯さくらの『手』はグーとパー。俺の手札もグーとパー。

 ここはパーをだしてお互いに次の勝負を見据えよう。)

 思惑通り、最初のターンでは石上も桐峯もパーをだし相子のため、決着は次への持ち越しとなった。

「ジャンケン ホイ ホイ」の声とともに石上は考える。

(桐峯さくらはチョキとパー、俺はグーとパーか。

 俺がグーをだした場合、チョキだと勝ってパーだと負ける。パーをだしたらチョキには負けてパーだと相子。

 桐峯さくらからすれば、チョキをだしたらグーだと負けて、パーだと勝てる。パーをだしたらグーには勝ってパーだと相子か。

 普通に考えたらリスクが全くないパーをだしてくるだろう。だがこの女のことだ。準決勝の件もあるし、俺がパーで相子にしようとするを狙ってチョキをだすかもしれない。

 わからない・・・。いったいどちらを選べばいい・・・。)

 石上ハサミは苦渋する。もう自分の運に賭けるしかないのか。

 彼が悩みぬいている刹那、その脳裏には走馬灯のように映像がよぎった。

 

 自分のだす『手』を決めたのか、石上からは先ほどまでの苦悶の表情がなくなった。そして顔をしたたる冷や汗を、肩を近づけ押し付けた。

 石上と桐峯はパーをだした。すなわち結果は相子だ。


 ふたりが相子を繰り返すうち試合は徐々にヒートアップ、石上の「相子でポン!」のかけ声は次第にやけくそのように熱を帯びていた。その声は対戦相手の桐峯や、試合を見守る観客たちの熱気も生み出し大きくなる。「相子でポン!」「相子でポン‼」掛け合いもだんだん速くなる。

 そして、二十六手目のことである。

「これは・・・!!??」

 観客たちがどよめく。

 両者の手を見てみると、石上の『手』はパーとチョキ。桐峯の『手』はグーとグー。

 そう、とても桐峯さくらとは思えないような初歩的な詰みかたをしていたのだ。

「いったいどうして・・・?」「どうゆうことだ・・・!?」

 口々に観客たちは疑問の声をあげる。そしてその疑問は桐峯さくら自身も抱いていることだろう。驚きと困惑に彼女の表情を見ればよくわかる。

 そんななか、ただひとりだけ不敵な笑みで勝利を誇るものがいた。それはもちろん試合の勝者、石上ハサミである。まるでこの事態も計算の内だといわんばかりだ。

「完敗だな。桐峯君。」

 重低音で届く声。小二の石上が生意気に先輩をあざけったにしては低すぎる。この発言の主は石上と桐峯の間にいた、今大会において常に「はじめ」の号令をだしていた人物である。

「校長先生・・・」

 弱々しくつぶやいた桐峯さくらの瞳は少し潤んでいるように見える。

「君は自分でも気づかない心のどこかで石上君を侮っていたんだ。前回大会優勝者の君の相手が小学二年生なんだ。油断するのも無理はない。だけどその隙を石上君に狙われたんだ。

 そうだよね、石上君。」

 校長の問いに石上は「はい」と頷くとこう続けた。

「二手目をだすとき、ふと頭によぎったんです。準決勝前の桐峯さくらさんの様子を。

 彼女は江戸次代さんと対戦する前は一言も話さずに真剣に相手の様子をうかがっていました。だけど、私と対戦する前は一変して、気の抜けた表情で話しかけてきました。あのときは私の動揺を誘ったのだと解釈したのですが、よくよく思い出してみると、彼女は相対する私の姿を見た時からずっと表情を和ませていました。

 そこで彼女が五歳も年下の相手だから油断をしていると気づいたわけです。」

「ほう、それはたいしたものだね。

 でも最初に話しかけたのは君のほうじゃなかったのかな?」

 石上は「えっ!?」と動揺して、周りを見やると桐峯さくらも観客たちも頷くものばかり。

 心の声が漏れていたことには本人も気づいていなかったようだ。

「と、ともかく・・・。桐峯さくらが油断していたことには違いない!

 俺はそれを見計らって相子のかけ声を徐々に速くしていった。かけ声が速くなると試合のテンポも速くなる。あとは桐峯さくらがテンパるのを待つだけだ・・・。二十六手も粘られたのはさすがでしたけど・・・。」


 多くは石上の解説に「なるほど」と感心した。小学二年生にしては非常によく考えられた作戦だし、実際それが成功したのだ。みんな感嘆せざるをえない。

「石上君、非常によく考えたね。

 この大会の優勝者は君だ。おめでとう。」

 校長は石上へ賛辞を贈る。そして周りの観客たちも、対戦で下した桐峯さくらをはじめとするライバルたちも彼へ「おめでとう」の祝辞を贈る。

 そう、石上は優勝したのだ。小学二年生にして、全校生徒が、全教職員が参加したこの大会に。


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