第986話 本気
ラインハルトとジークは宙に竜と蛇を持ち上げながら、奥へと足を進める。
「……皆、どこに行ったと思う?」
ラインハルトのその言葉にジークは足を考える。
「殺されたか、逃げたかのどちらかだな。しかし、竜と蛇の全てを持ち上げられたこの状況で、誰も姿を現さない事から……死んだのかもな」
「……簡単に殺られる様な事は無いと思うけど……なんの確証も無いけど」
「……この場所は特殊だ。だからこそ、何が起こるか分からない。何が起きても不思議ではない」
「僕達もどうなるか分からないね」
「どうなるのかは、あいつ次第だ」
ジークのその言葉により、ラインハルトは前方を向き、老人の姿を目にする。
「竜と蛇が居たこの場所に何事も無く居られるって事は」
「ワシがそれらを召喚した異能によるものだからな。召喚者が喰われる事は無いよ」
「ここに僕達が来た理由はこの場所を滅ぼす為だ。どうやら、ご老人貴方を倒す事になりそうだ」
「それはそれは、恐ろしい。見逃してはくれんのか?」
「ここから立ち去るのなら、手荒な真似は致しません」
「……お前の背後から伸びる影にワシの家族が掴まれているのだが……いつ放すのかな?」
「このまま、処理します!」
「酷い若者だな。この子らが何をした?」
「存在が罪なのです。ここで処理して、この場所を元の場所へと戻すだけです」
「……そうか。お前もか、お前達も否定するのか!」
老人のその叫びと共に老人の背後に竜と蛇が大量に出現すると、ラインハルトは直ぐ様、背後から影を伸ばし老人の背後から出現した竜、蛇を掴み、上空へと持ち上げる。
「……まだまだ、影を伸ばせるのだろう?何故、ワシに攻撃をしなかった?」
「する必要が無いと感じたからです」
「何故、そう思える?」
「そう思えたのです。理由は特には無いですよ」
「若造が、教えてやる!」
老人が、動き始めようとしたその時、既に老人はラインハルトの体から伸びた影の手に鷲掴みにされていた。
「……いつでも出来た筈の事をせずに、今になってやるか……手抜きが過ぎるな。若造」
「本気を見せる時はそれなりの覚悟を決めた時だけにしか使いませんよ。ジーク、このままやって良いのかい?」
ラインハルトのその確認の言葉をジークは一度、頷き了承する。すると、ラインハルトは影で掴んでいた竜、蛇、老人を握り潰す。
「ラインハルト、君の能力は見た通り、影を利用するのは分かる。だが、君の影は最初に使い果たした筈、そこから君以外の姿の影が見た気がするが……あれはなんだ?」