第981話 一夜の決断
「……まぁ良いわ」
天舞音が諦める様にして、会話を止めると一夜は壮馬に近づく。
「助かった。おかげで俺は、俺達は生き残れた。帰りは俺達で何とかする」
「……分かった。人生はまだまだ続く、しっかりな」
晴天開闢を神妙な顔で見つめる一夜に壮馬は優しく諭すと、その場から離脱する。
「天舞音、頼みがある」
「……何?」
「舞の記憶を破壊してくれ」
「……そうね。それが良いわ」
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「一夜は九十九家で引き取る事にする。何か異論はあるかね?」
玲奈の正面に座るこの白髪の老人は九十九家の当主、九十九一二三である。
この老人の功績により、今の九十九家の奈良支部の防御局との強い繋がりにより、日本でも有数の剣術を使う一族として名を馳せた。そんな一二三の威厳を目の前にして、日本最強の女剣士として知られる玲奈でさえ一二三には歯向かう事を躊躇してしまう。だからこそ、実の息子を引き離そうとするこの会話の主導権を一二三に握られたまま、会話は続いていく。
「……やはり、五三六は死んだ。あの時、言った通りになったな。五三六も一夜も九十九の名を名乗らせて、正解だった。一時でも川上などと名乗らせてなるものか。一夜の才能は九十九家で培うものだ、これ以上生ぬるい川上家には置いておけない」
「……全ては一夜に任せます」
「……で、どうだ?一夜」
一夜の答えはもう決まっていた。
「……九十九家に行く。母さん、舞の記憶は天舞音に消させた」
「そうみたいね」
「……俺は優しさはここで学べた。強さは九十九家で手に入れる」
「……私には止められないわ」
一夜は一二三の後に続き、川上道場を後にした。
「強さは九十九家で……か。九十九家は剣術を主に主体とした一族だ。聞いた話では一夜、お前は体術を主体にした戦闘スタイルの様だが、どうする?」
「体術は譲れない。九十九家は剣術のみではこのままだ。俺が九十九家に体術ありと思わせる」
「ほう。期待してしまう!」
「大した事はしない。やるべき事を成す!」
九十九家に向かった一夜によって、九十九家は剣術のみならず、体術に置いても日本トップクラスと言われる様になる。
体術を主に使用する者は少ない。だからこそ、一夜は体術のみでの戦闘では日本最強と言われる程にまで成長を果たす。
そこまでの強さを求めたのは、そこまで強くなれたのは、一夜には目的があったからだ。その目的の為に一夜は[レジスタン]に所属している。
この事件に関わった一夜、天舞音、ジークを[レジスタンス]に誘ったのは、春夏冬秋人による勧誘があったからだ。