第979話 引き寄せられる
魔帝神剣を手にしたジークはそのまま、竜の仮面を付けた男へと斬りかかる。
「……頭と体の動きは真逆となるこの状態で、上手く動ける。だが、こちらも動くぞ」
竜の仮面を付けた男は予告通り、動き出す。
「……ジークが、魔帝神剣を手に出来たって事は……父さんは……死んだのか?」
「一夜」
「……俺達も加勢しよう」
父親の死を受け止めた一夜は直ぐに、ジークの加勢へと加わろうとしたが、竜我がそれを止める。
「待って、一夜。……何故、ジークが上手く動けるのか分からないが、僕達が加われば足手まといになる」
「……なら、どうする?」
「今の僕達に出来る事をしよう」
「天舞音はどこ行った?」
「鏡の中に入ったよ」
「俺達を置いて、逃げやがったな」
「……基本的に負けず嫌いだからね。負けると分かったら、彼女は逃走するよ」
「……ジーク一人ではあの竜の仮面には勝てねぇぞ」
「しかし、どうする?僕達では」
二人のその会話の最中、竜の仮面の男は混沌を呼ぶ聖魔剣から大量の白、黒のオーラを放出していた。
「何だ?」
思わず声を漏らした一夜に戸惑いながらも竜我が返答する。
「混沌を呼ぶ聖魔剣にこんな力があるなんて、聞いた事が無い。まさか……覚醒なのか?」
「良く分からねぇが、動いておくか」
一夜は動いておく事で突然の事態に対応出来る様にとにかく動く事にした。そんな一夜を見て、竜我も晴天開闢を構える。
「……魔帝神剣を体内に宿さないお前はともかく、晴天開闢を体内に宿す神崎竜我……お前は違う。体内に宿すからこそ、真逆と出来る」
竜の仮面のその言葉を理解出来ないまま、竜我はその意味をその身で体験する事になる。
竜我の体は血飛沫を辺りに撒き散らしながら、体が崩壊していく。
「……竜我?」
それが現実なのか、それとも別のものなの、一夜の頭の中で整理もつかないまま、一夜は竜我の元へと駆け寄っていた。
「……一夜、」
弱く、細いその声を聞いた一夜はこの言葉が最後になる事を感じながらも、その言葉に耳を傾けた。
「……、…………」
一夜は理解出来なかった。竜我のその言葉を知らない訳でも無い。それでもこの状況で言う訳も無いその言葉に一夜は戸惑い、聞き違いだと、自身に言い聞かせた。
竜我の死、竜の仮面を倒す方法、戦い方が満足に分かっていない中、一夜は背後に引き寄せられた。一夜は咄嗟に晴天開闢を手にして、とてつもなく強く吸引力にジーク、一夜と鏡へと逃げていた天舞音までもその吸引力に引き寄せられる。