第970話 実家に戻る
何気無い会話、いつもの道、変わらない日常の中に、一夜は違和感を覚える。それは殺気だった。
一夜その殺気を感じた場所を見つめる。
「どうかしたの?」
突然の兄の動きに舞は心配そうに話しかける。
「誰かにつけられている」
「誰に?」
「それが分かれば、苦労は無い」
「気のせいでしょ?」
「……消えた?」
「ほらね!」
軽やかに歩き始める舞の背中を見て、危機感の無さに呆れると共に、消えた殺気の行方を気にかけていた。
「……今日のお兄ちゃん変だったんだよね」
買い物を終えた舞は今日あった事を母親である玲奈に報告していた。
「何が変だったの?」
「殺気を感じたんだって」
「……そう」
玲奈は直ぐに舞か一夜のどちらかが、狙われている事を把握する。一夜の実力的にそうそう倒される事は無いが、舞だけは違う。一人で戦闘が十分に出来る実力は無いと断言出来る。だからこそ、玲奈は直ぐに行動を開始する。
「どうしたの?急に」
舞はスマホを操作を始めた玲奈に問いかける。
「実家にね」
「珍しいね。川上家に連絡するなんて」
舞が言った通り、玲奈が川上家と連絡するのは極稀な事であり、この時の玲奈の連絡は約五年振りとなる。
連絡を終えた玲奈は舞に優しく語りかける。
「明日から、川上家に暫く住むことになったから」
「急だね」
「念のためよ。一夜にも五三六と一緒に九十九家に行って貰うわ」
「何でそこまで?」
「そこまで?足りない位よ。どんな状況でも、万全な対応が出来てこそよ」
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「突然で悪いけど、明日から川上道場は暫く休む事になりました」
五三六のその言葉で道場中はざわざわと声が漏れ始める。
「一夜。暫く会えないね」
「あぁ、母さんの心配性のせいでなぁ。俺も嫌な九十九家に行くんだ。竜我、お前も神崎家に戻ってみたらどうだ?」
「何度も言うけど、僕が神崎家に戻る事はないよ」
「……妹だけは助けるんだろ?良いのかよ」
「心配無いさ。助けに行くときは神崎家を一人で相手出来るまで強くなってからさ」
「……人の家庭には口を出さないよ。それ以上は」
「……助かるよ。それで、一夜は五三六さん、舞ちゃんは玲奈さんなら……ジークはどっちに?」
竜我のその一言に一夜は強く反論する。
「当然、九十九家に連れていく」
「そうだね。それが良いよ」
竜我と一夜のその会話の最中、突然鏡が出現する。
「天舞音か」
一夜のその一言に竜我は同調する。
「そうだろうね」
二人の予想通り、鏡から天舞音が姿を現す。