第968話 ジークvs一夜
「そんな事言ってねぇだろう」
「なら良いけど」
「お前こそ、神崎家に戻らねぇのか?」
「僕は二度と戻らないよ。あそこに僕の居場所は無い」
「そうかい」
「……ジークフリードはどうなんだい?」
「直ぐに分かる。どうせ、奴はこの道場の門下生になったからな」
「先輩として頑張らないとね」
「いつも通りで良いだろう。それにお前に勝てるのはこの道場で父さんか母さん位だ」
「そんな事はないよ。君の剣術は」
「よせ、父さんも母さんも剣、剣、剣。俺はあの二人とは違う。何よりも俺は父さんも母さんも超えられず、お前にも勝てないからこそ……逃げたんだ。俺は体術でやっていく」
一夜の周囲は常に剣と密接な関係が所々にあり、一夜が剣を手にするの当然の様に手にする事になるが、周囲の才能と自身の努力が追い付く事無く、諦める様な形で体術へと変更することになる。川上家、九十九家共に剣に精通した家系にも関わらず、一夜の体術の才能は開花し、川上道場では父親の五三六、母親の玲奈との武器なしの戦闘において圧勝する程の力である。
「……ジークフリード・アンサンブルです。宜しくお願いします」
今日から川上道場の門下生となるジークの挨拶が終わると、ジークと一夜の手合わせが始まろうとしていた。
「……お前は剣を使うのだろう?使って良いぞ」
「見る限り、貴方は剣を持っていない様ですが」
「俺は体術のみでやる。気にするな。お前は能力も魔法の両方を好きに使え。俺は能力とこの体一つで相手してやる」
「……では、遠慮無く」
ジークは魔法陣を出現させると、そこから黒い棺を取り出すと、鎖に繋がったその黒い棺を背負い出す。
「……何だ?その棺は」
「魂を入れておく入れ物と言っておくよ」
「黒棺か?」
一夜はその特徴的な棺を見て、それが黒棺である事を見抜いた。黒棺からジークは魂を取り出すと、黒魔術:降霊術を発動させ、魂の操作を始める。
それと平行して、ジークは受注生産を発動させ、ジークが望む剣を複数造り上げると、その剣に魂を入れ込み、独りでに剣が動き出す。
「……降霊術と能力の同時平行か……面白いな」
「面白いだけでは、終わらないよ。僕のこれは曲芸ではない」
ジークは無数の剣を一夜に向け、放つ。
一夜は何の躊躇いも無く、己の拳、腕等を駆使して、剣を退けた。それはジークの目から見て、異様な光景だった。剣は一夜の腕に刺さる筈の角度と早さにも関わらず、一夜には剣が刺さる事無く、傷一つも残っていなかった。




