第966話 昔の川上道場
廉と共にやって来た天舞音は紫音が手にしていた資料を見て、おおよその状況を把握する。
「ジークに渡された資料ね」
天舞音は勇治を睨みつけながら、告げる。
「ええ、言葉で説明するよりもこれを見せてくれと言う指示でしたから」
「なら、必要無いわ。資料何かよりも経験した人間が語った方が良いでしょう。教えてあげる。川上玲奈と九十九五三六の川上道場で何があったのか」
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これは今から三年前の出来事である。
川上道場は今の玲奈、舞、廉の三人と違って、二十人以上の門下生が居た。東京本部に存在する川上道場に九十九家の人間が居る事から優れた剣術が学べるとして、多くの人間見学等、人の出入りが多い道場でもあった。
「……じゃじゃ馬だね。君は」
黒髪のその男は黒きオーラを放つ剣を持って告げる。その男こそ、五三六である。そして、五三六が手にしている剣は五三六の体内に宿る神器であり、能力によって、出現させる事が出来る魔帝神剣である。
「黙れ!」
声を荒げるこの少年は魔法陣による転移魔法で逃れた来たジークである。
「落ち着いて話さないか?」
「話す事等無い。戦って生き残るそれだけだ」
戦場から逃走してきたジークは混乱しており、話し合いが出来る様な状況ではなかった。ジークは受注生産を発動させ、大剣を造りだしてそれを手にする。
「君の体格に合っていないようだけど?」
「黙れ!」
ジークは大剣を五三六に向け、振るう。五三六は魔帝神剣で切断させる。すると、ジークが持っていた大剣は腐敗していく。
「百名剣に名を連ねるこの魔帝神剣は切り付けたものを腐敗させる事が出来るんだ」
五三六が口にした事からジークは迂闊に動けずに居た。そんな、ジークの回りに鏡が出現する。
「待つんだ」
それを見た五三六は直ぐ様、止めに入る。
そこには短髪、金髪の少女が居た。その少女は幼き天舞音だった。
「……そいつ、ここで殺らないと、門下生達を殺すよ」
「有栖川……何でそんな事が分かる?」
「……そんな気がする」
「……責任は全て取るよ」
五三六は魔帝神剣を消滅させると、手ぶらでジークに近づく。ジークは服はボロボロで、痩せ細っていた。
「……ご飯食べないか?」
五三六の提案はジークは勿論、天舞音も予想もしていなかった事であった。
「……親父の奴、ボロボロの男と家の方に行ったな」
五三六の息子である一夜は父親である五三六とジークののやり取りを道場から眺めていたが、突然道場の隣にある家へと向かった事に戸惑っていた。