第962話 物干し竿
呂布の持つ聖天激戟は振るのには困らないだろうが、勇治のもつ長刀は何も考えず、振るえば壁、天井に接触する事はその場に居る者なら、全員が把握出来る事実である。勇治が不利な状況であるが、呂布が手心を加える事は無い。呂布は聖天激戟を勇治に目掛け振るう。
勇治は長すぎるその刀で難なく、対応して見せる。
「……しゃがんで対応したか……やりにくいだろう?」
「戦いなんて、全てやりにくいものさ。その中で、自身のみがやりやすい様に工夫をして、相手にはやらせない。それが私の戦いだ」
「だとすると、しゃがむお前はやりにくそうだぞ」
「私の物干し竿の長さから私の戦いは常に物干し竿に寄り添った戦いとなる。それにやりにくい事なんて無い」
「しゃがんで、力を入れられるのか?広い場所に移動しても良いが?」
「必要無い。佐々木家の当主となった者は技を一つ作り、次の当主に伝承していく。三十の技が存在している佐々木の秘剣がある以上、私に敗北は無い」
「見せて貰おう。お前の秘剣を」
「……悪いのだけど、私の秘剣はまだ完成していない。佐々木家の次期当主は秘剣を完成させた時に、当主となれる。そして、当主となった時にこのブレスレット型の魔法の鎖を外す事が出来る」
「……魔法か?能力か?異能か?」
「能力さ。産まれてから、この能力を一度も使った事が無いから、必要なものではないさ」
「無能力者みたいなものか。我と同じく」
「……呂布。君の強さとその槍の厄介な能力を考慮して、本気で行かせて貰う」
勇治は物干し竿を片手で強く握りしめると、もう片手を地面に体重を乗せる。
「こんな不恰好で放つのは不本意だけど……仕方ない。秘剣燕返し」
早すぎるその剣撃は目にも止まらなかった。しかし、呂布は聖天激戟で防御を成功させる。
しかし、衝突した衝撃波は止めようは無く、呂布は体制を崩し、この時に気がつく。勇治の放った攻撃が一撃のみでは無く、無数に存在していたことに
「呂布!」
体制を崩しした呂布の体には一瞬にして、無数の刀傷が増えていく。そんなに呂布を見て、思わず、デュラークは叫んでいた。呂布と言う男の体は通常の刀なら、打ち込んだ刀の方が、刃こぼれ、もしくは刀が折れるだろう。そんな頑丈な体を持つ呂布の体に傷が入る事もあり得ないが、何よりも呂布の天性の勘による対応能力と敵の強さを掻き分ける戦闘センスを持つ呂布が対応出来ない攻撃を放つ勇治と言う人間に思わず、デュラークは肝を冷やしていた。