第961話 佐々木勇治(ささきゆうじ)
紫音の質問に答えたデュラークはただならぬ、者が接近している事に気がつく。
「呂布。そろそろ、君の望んだ人が来そうだ」
「……その様だ!」
呂布は喜びに満ちた子供の様な笑みを浮かべると、聖天激戟を振り回す。
そんな中、その部屋にやって来た長髪に眼鏡をかけた男性が訪れる。そんな男の特徴は容姿や体格よりも先に背中に背よった長刀である。
「……間に……合わなかったな」
その男は深刻な表情を浮かべると、座り込んでしまう。
「……この我を前にして、その態度余程の大物と見た。手合わせ願おう」
呂布は振り回していた聖天激戟を座り込んだ男に向けると、笑みを浮かべる。
「……何人殺した?」
「……三人は死んだ。我はその内の一人をやった」
「そうか。私に出来るのは敵討ちのみか」
「やる気だな。嬉しいぞ」
「後で死ぬ気で謝ろう。川上舞との約束を違えた事は」
その男から舞の名が出たことに、紫音が反応する。
「舞って」
紫音が告げた事によって、男は紫音の方を向く。
「君達は?」
「えっと、今日から新たに[レジスタンス]に入った者ですけど」
「三人とも?」
「はい」
「そうか。間に合ったか。どうやら、私の仕事は残っているみたいだ」
男は勢い良く立ち上がり、いつの間にか背負っていた長刀を抜き、手にしていた。
「いつ抜いた?」
男から目を反らすこと無く見続けていた呂布は思わず、聞いていた。
「今さ。気づかなかったか?」
「……気づかなかったな。産まれてから、今まで槍しか手に取った事は無いからな。剣の事は何も分からん。だからこそ、楽しめるぞ。この戦いは」
「戦いを楽しむつもりか?戦い程、つまらないものはない。私の一族は常に狙われ、命の安全等は無い。だからこそ、私達の戦いは死なぬ為の、生きる為の戦いとなる」
「そうか。ならば生きて見せろ。強者よ……名を聞いておこう」
「佐々木家の次期当主、佐々木勇治。当主となる時は、小次郎の名を襲名する男だ。そちらの名も聞いておこう」
「我は、何も無く産まれた、名も、才能も、家族も……全てを奪った。我が名は呂布。楽しもうぞ、佐々木小次郎」
「今はまだ勇治なのだが」
「関係無い。我は次期にそうなる男の名を優先しただけだ」
「今日ここで、私が殺されれば、勇治の名のまま死んでいく事になるのだが」
「今日はお互いに死ぬ事は無いだろう。……勘だがなぁ」
「奇遇だな。私も感じていた」
呂布、勇治ともこの戦いに命を落とす事が無い事を察しながらも、二人の戦いが始まる。