第949話覆い尽くす影
「……影に呑まれれば、全ては無へと帰す」
八重は無影虚無によって、全身から膨大な量の影を産み出していく。影は松元の体内から放出する魔力を呑み込み、魔合混沌槍を呑み始める。
しかし、飲み込めたのは魔力のみであり、魔合混沌槍は逆に影を吸収して、強化していた。
「……その神器はそうなるわよね。でも、貴方は違う」
八重は松元の体に影を伸ばす。魔合混沌槍は影を吸収出来たものの、松元はそれが出来ず、影に呑まれていた。松元の抵抗もむなしく、影へと呑まれた松元の周囲には、魔合混沌槍だけが残られた。
「通常の神器なら、私に適合しないかも知れないけど、大量に私の影を吸収しているこの状況では、私を選ぶしか無いでしょ」
八重は地面に落ちている魔合混沌槍を手に取る。しかし、魔合混沌槍は八重を否定するかの様に、八重の手から弾け飛ぶ。
「そう。否定するの?」
八重は無影虚無を発動させ、魔合混沌槍を呑み込んでいく。
松元が居ない事もあって、吸収することも無く、影に呑まれると、八重は影を自身の影へと戻す。
「魔合混沌槍は手に入れた。もうここに居る理由は無いわね」
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チーム[ハンド]は松元の処理を終え、チーム[ゼロ]が拠点とする。目視も触れる事も出来ないビルへと戻っていた。
「……何か、騒がしいわね」
いつもとは、明らかに違う雰囲気のビル内の様子に玲愛は違和感を覚えながら、チーム[ハンド]が住まう階層に移動していた。
「何だか、男連中は忙しそうにしていましたね」
琴音のその言葉に、八重は魔合混沌槍を磨きながら、適当に返答する。
「そうね」
「えらく気に入っているわね」
「そうよ。でも、私が本当に欲しい槍は別にある。名十槍の一種である魔槍、不条理なる魔神槍だけよ」
「……それで、誰が所持しているの?」
「分かっていたら、今頃、私の手にある」
二人のその会話の最中を遮る様に、楓が割って入る。
「聞きましたか?」
「「何を?」」
楓のその質問に琴音、八重は同時に答えると、楓は話始める。
「チーム[三羽烏]の一人になる筈だった男がチーム[ゼロ]のメンバーを襲っているって話です。二人で手を組んでいるそうで、現在は五十人近く殺しているそうです」
「……でも、ここまででしょ」
そう告げた琴音に八重も同調する。
「でしょうね。そこまでされて、黙っていられる連中では無い。その二人の残酷な死は決定的ね」
琴音の言う通り、チーム[ゼロ]はその二人を殺すべく動き始めていた。