第941話 ドッチボール
日本のトップアイドルを決めるこのバラエティ色の強いこの収録では、何故か、パン食い競争の次はドッチボールと言う競争であり、アイドル要素が全く無いこの状況を唯一突っ込んだのは、天舞音の姿をした廉だけだった。
「アイドルどこ行った?」
「助言したのは、僕だよ」
「松元さん?」
「あぁ、ただのアイドル対決では十六夜春美に軍配が上がるだろう。だからこそ、他の人間……主に有栖川天舞音の助力になればと思ったんだけ、有栖川天舞音は自ら手で対処していたみたいだから関係無いか。でも、僕が競争の内容を変更していなければ、今頃君は歌って踊って居たかも、そして、何よりも水着の着こなし何て言うのもあった。端から見たら、間違い無く、有栖川天舞音そのものだ。だが、水着の着こなしがあれば、君はビキニを着る事になっていたよ」
天舞音の姿をした廉は倒れ込み、松元の手を握る。
「ありがとうございます!」
「気にするな!魔眼を持つ僕は君の姿を認識出来る。……もしかしたら、君のビキニに姿を見てきたのかもな」
「俺が断って可能性もありますよ」
「有栖川天舞音がそれを許すと?」
松元のその指摘によって、廉は一瞬で考え、理解する。
「本当に、ありがとうございました!」
「気にするな。立てるか?木山の倅よ!」
「はい!」
天舞音の姿をした廉は松元の手を取り、立ち上がる。
「つぎの競技であるドッチボールでこの収録は終わりだ。勝てよ。応援しているよ」
「……こんなのを放送出来るんですか?」
「しないよ。尺が全然足りないからね。十六夜も敗北すれば、本性を現すと思ったからね」
「本性って?」
「……時期に分かるよ」
松元の含みがあるその言い方に気になりながらも、最後の競技であるドッチボールを行う場所へと移動していた。
「……問題は十六夜春美だけだな」
ドッチボールをする上で障害にあるのは確実に十六夜春美だけである。十六夜春美の理解の偶像は随時発動する異能であり、天舞音の姿をした廉以外の参加者は春美に魅了され、満足に動けずに天舞音の姿をした廉と春美の二人の対決になることは明らかである。
「第二開戦、ドッチボール対決!始め!」
春美と天舞音の姿をした廉は敵同士になり、ボールは春美の手にあった。そんな春美の全身から黒いオーラが放たれる。
「……覚醒か」
春美の全身から黒いオーラの放出を目にした天舞音の姿をした廉は春美が異能を覚醒させた事を把握する。
廉が一度目にした覚醒は相手を魅了するものから、相手を恐怖させるものであり、今回もその恐怖させるものである可能性を考える。