第940話 松元
「困っている様だから、言っておくけど、有栖川天舞音ではなく、木山廉の方ね」
「えっ?嫌だなぁ、俺、有栖川天舞音ですよ」
「……まず、有栖川天舞音はそんな口調では無い。そして、一人称は俺ではなく、私の筈だったが」
「これは……」
「さっきまでは有栖川天舞音の姿だったけど、今は君の姿だ木山廉。鏡の国の支配者の異能の効力が切れたか?」
「えっ?マジで」
「嘘!」
「……」
「認めたって事で良いのかな?」
「……この事は」
「黙っているよ。十六夜春美についてもね」
「俺の事前の大会で知ったんですよね?」
「君が子供の時に会っているんだが、覚えては居ないか?」
「すみません」
「謝る事はない。君の父親である木山ゲンマとは昔チーム[シード]で一緒だったんだよ」
「……それって昔の大戦の時に結成されたチームですよね?」
「あぁ、と、言ってもチーム[シード]の当時のメンバーここ最近殺され始めている。時期に迎えに来るだろう」
「……あの」
「関係の無い話だったな。忘れてくれ」
天舞音の姿をした廉は一番にゴールをしたと言う事があり、楽屋で待機しても、良いと言う話を受け入れ、楽屋に戻っていた。
「……十六夜春美には勝てたわね。この調子で頼むわ」
「あぁ、任せろ……一つ聞きたい事があるんだけど」
「松元の事ね?」
「あぁ、俺の正体を」
「知っているわ。貴方の体に張り巡らせた鏡を伝って見たわ。彼の目はオッドアイだったでしょ?」
「そうだな。それが何だよ?」
「過去の大戦の左目を失った松元は異形な魔眼を移植しているの。彼の目には物事の本質を見抜くとされているわ」
「正体がバレた理由は分かった。俺が聞きたいのは」
「ここ最近、チーム[シード]が殺されているって話ね」
「良く分かるな」
「貴方の体に張り巡らせた鏡を伝って、貴方の考えも把握しているのよ。私は、事実、橘吉凶もチーム[ドミネーション]のリーダーである小淵沢伊織によって、殺されているわ」
「チーム[ドミネーション]……[レジスタンス]として、チーム[ドミネーション]は潰したい」
「勝手にすれば、貴方の父親である木山ゲンマの異能も小淵沢に奪われているからね」
「チーム[ドミネーション]の目的が分かるのか?」
「そこまでは知らないわ。他の人間に聞きなさい。まだ競技は続くようだから、頑張って」
廉は再び、収録会場へと足を運ぶ。
天舞音と春美の除いた八人のパン食い競争は終わり、最下位の四人は敗退となり、残りの四人と天舞音、春美を加えた六人で二回戦目の競技が行われようとしていた。