第938話 代役
「ふざけているの?私の鏡の国の支配者を使って、貴方の姿を私に見える様にするわ」
「あぁ、そうゆう事……そんなも出来るのか?」
「ええ、鏡に関することや鏡を利用した物なら何でも出来るわ」
「でも、俺の姿を有栖川に見せるだけだろ?」
「そうよ。だから、分かる人間には分かってしまうのよ」
「それでもやるのか?」
「ええ、やるわ」
「俺はどうすれば良い?」
「好きにして貰って構わないわ。何をやるかは私も分からないし」
「分かった。全力でやるよ」
廉と天舞音の二人の共同作戦が開始する。
「天舞音ちゃん。お疲れ」
「はい。お疲れ様です」
「……」
男性スタッフは驚きの余り、立ち尽くしていた。
(しまった。有栖川は挨拶なんてしねぇ)
天舞音の姿に見えている廉は慌てて、訂正する。
「失せろ!ゴミくず!」
「……すいません」
男性スタッフは罵声を浴びせられても、いつもの事の様に受け流すと、道を譲る。
(有栖川。どんな接し方をすれば、こんな暴言で道を譲られるんだ)
廉は天舞音の芸能界での立ち位置がどういったものなのか、疑問を抱きながらも、収録会場へ向かう。
会場にはアイドル十人が揃い、スタッフ達も急いで準備をしていた。そんな中でも、皆の視線を春美が独占していた。
「天舞音さん。頑張りましょ」
春美は離れている場所からわざわざ移動して、天舞音の姿をした廉に告げる。
「……うん」
廉は余計な言葉を言わない様に一言で済ませた。
「いつもと様子が違いますね?」
「……」
「いつまで我慢出来るのか、楽しみですね」
春美はさっきまで居た場所まで戻り、何事も無かったかの様にその場に留まっていた。
天舞音と廉の共同作戦が今開始する。
「始まりました。日本一のアイドルを決めるこの会場。日本のトップアイドル決定戦ここに開始です」
特徴なアフロヘアのその男性の宣言によって、収録は開始する。
(……この男性どこかであった事があるような。……そうだ。実況していた人だ)
廉は司会進行役である男がかつて廉も参加した戦いの実況を務めた松元である事を思い出した。
「それでは始めましょう。第一の試練はパン食い競争です!」
十人居たアイドル達は春美を除いて、驚いていた。
十人集められたアイドル達は何をするのか今初めて知ったものの、春美には関係の無い事だった。
理想の偶像の異能は見るものを魅了する異能であり、精神深くまで侵食されるこの異能が存在する以上、春美に敗北は無いだろう。
「位置について、よーい……ドーン!」