第937話 交渉
「どうかしました?」
「何とも思いませんか?」
「何かとは?」
「……天舞音さんが何かしました?」
「何かとは?」
「……ここに来たのは何か目的があるのでしょう」
「目的と呼べるのか分かりませんが、お願いが」
「何かしら?」
「有栖川には近寄らないで貰えませんか?」
「無理ね!これ」
春美は台本を廉に投げる。
「……これは、日本一のアイドルを決める大会(仮)……何これ?」
「見た通りよ。私も天舞音さんも出演するのよ。近寄るに決まって居るでしょう?」
「……有栖川が今日限りでやれと言ったのはこれか」
天舞音の目論みを理解した廉はため息をつく。
「……天舞音さんもいよいよ、私を無視出来なくなったって所?」
「嫌、あのプライドの塊の女は自身が一番って考えだ。そんな事は思って無いと思うけど」
「……天舞音さんの天下もここまで、これからは私の時代誰にも邪魔はさせない」
「邪魔なんてしない。俺も有栖川も、ただ近寄らないで欲しいらしい」
「……貴方、マネジャー何でしょう?天舞音さんに伝えてくれる?」
「何でしょう?」
「逃げずに戦いましょう。アイドルの最高のステージで」
春美の楽屋から出た廉は春美から頼まれた伝言をどう天舞音に伝えるか考えていた。
春美に言われた通りに天舞音に伝えれば、確実に天舞音はキレる。
キレた天舞音がどの様な行動を取るのか、有栖川天舞音と言う人間の事をさほど知らない廉に知る術は無かった。
「有栖川に伝えても、キレない言葉に変換しないとな」
廉は天舞音の楽屋に入ると、同時にその楽屋の中の全てが鏡張りになっている事に気がつく。
「……そう。宣戦布告を受けたのね」
「鏡に写った俺の姿から……見たのか?」
「ええ、あそこまで言われて、引き下がれないわね」
「……どうするんだ?」
「やるわ。私に刃向かった事を後悔させないと」
「俺が伝えなかったと言う事にすれば」
「もう私は知っているわ。知ったからには、やるわ」
「……考えは変わらないか?」
「変わらないわ」
天舞音の考えは何があっても変わらない事を知り、春美の思い道理に事が進んでいる様な気がしてならなかった。
「そんな事を言っても、十六夜の理想の偶像をどうする?」
「問題はそこね。そこしか無いわ。あの女は、上手く回避する方法があれば……」
天舞音は廉を見つめる。
「なんだよ?」
「貴方なら、異能の影響を受けないのよね?」
「魔属性のみだけどな」
「……代わりに貴方が出なさい」
「おいおい。俺に女装して出ろって言っているのか?」