第936話 楽屋
「貴方はいちいち、楽屋に来ないと考えを纏められないの?」
「だから、十六夜春美の異能についてお前の考えを聞かせてくれよ」
「……貴方の話によると、黒いオーラを放出させ、覚醒したと思われる十六夜春美の異能は相手を魅了するものは正反対な異能へと変化しているって言う事で良いのかしら?」
「……あぁ、男性スタッフのあの怯え方からして間違い無いと思う。そして、覚醒を解除して再び男性スタッフは魅了されているみたいだったからな」
「……で、貴方はどう思うの?」
「十六夜春美は男性スタッフに言い寄られて仕方なく、覚醒で何とか対処しているように見えた。あいつが悪い様には俺には見えなかった」
「十六夜春美がどんな人間でも関係無い。私に関わらない様にして」
「十六夜春美の覚醒も俺には耐性があるから問題は無いかも知れないけど、どうやってやればお前に近づかせない様にするにはどうすれば良いのか分からねぇよ」
「説得しなさい」
廉は楽屋から出て、天舞音の提案通り、説得するため春美を探す事にした。
「……ここが十六夜春美の楽屋か。俺みたいのが入れるのかな?」
廉は春美の楽屋の扉をノックする。
「はい」
楽屋の扉が開くと、春美ではない女性が姿を現す。
「何でしょう」
警戒心を剥き出しにしているのが、分かる程警戒していた。
「有栖川のマネジャーです。十六夜さんは居ますか?」
「居ますが……何か?」
「出来れば、直接会いたいのですが」
「少々お待ち下さい」
春美のマネジャーだと思われる女性の態度からして、春美に会う事は絶望的だろうと思っていた廉だが、男性スタッフから聞いた春美は天舞音に憧れていると言う話が本当なら、天舞音のマネジャーと名乗った廉にも会える可能性がある。
「……どうぞ」
開かれた扉から顔を出した女性マネジャーは不満そうに廉を楽屋へと招く。
女性マネジャーの様子からマネジャーの意思ではなく、春美が会う事を了承したことが分かる。
「……少し、二人にさせて貰えます?」
「何を言っているの?」
「……少しだよ」
「……何かあれば呼ぶのよ」
「はい」
女性マネジャーは楽屋を後にする。
「話って何ですか?」
春美は満面の笑みで廉に尋ねる。
「少し、話したいと思いまして」
「……」
春美はどこか驚いた様子で廉を見つめていた。その原因は春美の異能である理想の偶像の効果が廉には見られない事だろう。炎神の魔武器の神器を体内に宿す廉は魔属性の耐性があり、春美の異能の影響を一切受けていない。