第932話マネジャーの務め
「良いわ木山廉。マネジャー業務なんて柄では無いでしょう?そもそも今日、貴方をここに連れてきたのは目的があるの」
天舞音のその言葉は廉も待っていた言葉だった。マネジャー経験の無い廉を一日限りのマネジャーにしたのには何かしらの理由があるだろうと考えていた廉だったが、現在に至るまでそれについて知るには至らなかった。
だが、今、天舞音の口からそれが語られようとしていた。
「貴方には十六夜春美を何とかしてもらいたい。それが出来れば貴方を認めてあげる」
天舞音のその言葉を受け、廉はマネジャー業務より簡単な事で済むと安全した所で、一つの疑問を抱いていた。
それは廉よりも強く、廉よりめ様々な事をする事が可能な天舞音が出来ない事とは何なのかと言う疑問であった。
「……マネジャー行くわよ」
「あぁ、待てよ」
楽屋を後にした二人は廊下が騒がしい事に気がつく。
「何かしら?」
「なんだろう?」
「……マネジャーとして、見てきたら?」
「マネジャー関係あるか?お前見てこいよ」
二人がどっちが見に行くのか、言い合いをしているその最中、小柄な銀髪の女性が二人の前を通過する。
「お疲れ様です」
銀髪の女性のその挨拶、廉は勿論返すが天舞音はする事は無いだろうなと廉が天舞音の様子を伺っていると
「お疲れ……様……はぁはぁ、春美ちゃん」
それは今日一日天舞音の側に居た廉にとってはあり得ない事だった。
他人を見下し、自身が最も優れた存在であると言う考えを持つ天舞音が挨拶をする事も、挨拶を返す事も無いと思い込んでいた廉は天舞音のその行動に戸惑っていた。
(……あり得ねぇ。挨拶をまともにする女か?それにはぁはぁって……どうした?)
廉は天舞音の挨拶以外にも息が乱れている事を思いだし、天舞音の顔を確認する。
「相変わらず、可愛いですね。天舞音さん」
銀髪の女性は天舞音の頭に手を起き、笑顔を向ける。
(馬鹿なのか?有栖川にそんな事をしたら、殺されるぞ!)
廉のその心配は必要は無かった。
「ありがとう。春美ちゃんも、はぁはぁ、可愛いね」
天舞音のその返答は廉も予想していない事だった。
「おい!どうした?有栖川」
廉は天舞音の肩を揺さぶり、天舞音に声をかける。
「……うるせぇ。殺すぞ」
「それだ。有栖川と言えばその感じだよ」
「はぁ?今は春美ちゃんとお喋りするの」
「……大丈夫なのか?」
「何が?おまえは日本のトップアイドルだ。誰かに媚びる様な奴では無いだろう?」
「……楽屋に戻る」
天舞音は慌てて、楽屋に戻っていく。