第930話 マネジャーの心得
天舞音の傍若無人な振る舞いに廉はこれ以上マネジャーとしてやっていける自信があるわけもなく、天舞音の楽屋で深いため息をつく。
そんな廉に天舞音は近づいてくる。廉からしたら、ため息が気に要らず、制裁を加えられるかも知れないと言う不安から体中から汗が流れ、謎の震えで立つ事も出来ず、逃げる事も出来ずに居た。
「電話」
「……はい?」
廉は天舞音に手渡されるがまま、スマホを手に取り、耳に当てる。
「はい。木山です」
「貴方が木山君ね。天舞音からは聞いているわ」
凄まじく明るい女性のその声の持ち主は廉の返答や質問等を許す事なく、話を進めていく。
「まず、天舞音のマネジャーとして必要なのは、天舞音の障害になるものや邪魔をするものは天舞音が手を下す前に、天舞音が気になる前にマネジャーが処理するのよ」
廉は天舞音が独りよがりな考えの元、好き勝手に行動しているのかと思っていたが、それは違った。マネジャーと二人で好き勝手に芸能界に存在していること廉はこのタイミングで知る事になる。
「何か、質問があれば、聞くけど」
「そんなやり方でこれからもやっていくつもりですか?」
「今までそれでやってたの。これからも同じよ。文句があるの?」
「文句しか無い」
「確かに端から見たら、天舞音の行動は目に余るわ。それで天舞音も私もこのやり方しか知らない。このやり方で生きていくと決めたの」
「何があったら、そうなるんですか?」
「私の口からは言えないわ。そして、天舞音の口からは母親の事は言わせない。貴方が天舞音に母親の事を質問したら……殺すわ」
「聞きません」
「良い心掛けね。マネジャーは担当した者のスケジュール管理するだけでは三流よ」
廉は何処かで聞いた様な台詞だなと思いながら、廉は聞き続けた。
「スケジュールと身の回りの世話ここまでして二流」
スケジュールはともかく、身の回りの世話はマネジャーの仕事では無いのではと、思ったものの、廉が天舞音のマネジャーに言い返せるタイミング等は皆無だ。天舞音のマネジャーは一度も止まる事なく、喋り続け、廉が割って入る事を断念するレベルで話を続けていた。
「そして、天舞音の全てを理解して、天舞音が満足出来る一日にするのが一流」
廉はその一流はマネジャーはマネジャーでも天舞音限定のマネジャーなのではと思い、そして、そんな事を出来るのは、今もマネジャーを務めているこの人物だけしか居ないだろうと思い。天舞音のマネジャーの話が途切れたタイミングで切り出す。
「それって、貴女しか居ないのでは?」