第929話 マネジャー
四月十三日
日本のトップアイドル有栖川天舞音はモデルをこなすものの、肌の露出は一切せずに、ファン相手にも媚びない。仕事先でも媚びる事は無い。そんなアイドルの姿を一時間の間だけ見てきた木山廉は
「お前、良くアイドルとしてやっていけているな」
「何が?」
「同じステージに上がるアイドルをボロクソに言って、食事に誘ってくれたプロジューサーに暴言……いずれ、芸能界から追放されるぞ」
「何もかも三流のアイドルならの話でしょう?」
「はぁ?」
「三流のアイドルは誰が相手だろうと媚を売り、二流のアイドルは一部の人間に媚を売る。一流のアイドルは媚を売らない。己の実力でアイドル活動を続けられる者。そして、私は何をしても許される」
「随分と、片寄った考えだな」
「当たり前でしょう。肌を露出する女程、作り笑顔に長けた者程、信用なら無い」
「何でそんな考えになるんだよ?」
「……私の母親がそうだったから」
天舞音のその言葉に廉はそれ以上追及する事は出来なかった。
「楽屋に戻りましょう」
無言を貫く廉に気を使うように、天舞音は楽屋を目指す。
廉も天舞音の後に続き、歩き始める。そもそも、接点の無かった二人がこうして、共に行動しているのかと問われると、話は三時間前に戻る。
[レジスタンス]の総帥として、廉は[レジスタンス]面積と顔合わせをしたものの、集まったメンバーはアメリカ軍で共に戦ったメンバーと天舞音のみであり、天舞音の提案によって、廉は一日マネジャーをすることになった。
断る事も出来た話だったが、廉はこれからも共に行動するであろう天舞音の事を知ろうとして、マネジャーの話を承諾したが今更ながら、後悔していた。
「天舞音ちゃん。お疲れ」
廊下ですれ違う男性が天舞音に挨拶をする。それだけだ。しかし、天舞音の背後に居る廉は不安だった。
一時間のみであるが、天舞音を見てきた廉は天舞音が挨拶を返すとは思えなかった。事実、天舞音は男性を一切見る事なく、素通りする。
廉は慌てて、男性に会釈すると、足早に天舞音を追う。
「おい、待て!さっきのは何だ?」
「何が?」
「挨拶だよ」
「誰が、誰に?」
「男の人がお前に」
「私には見てなかったわ」
「何だ。見えていなかったのか?」
「嫌、見てなかっただけよ」
「見ろよ。何で挨拶しないんだよ」
「貴方もマネジャーなら、得体の知れないおっさんがちゃんで私を呼んだ時点で貴方はマネジャーとして、あのおっさんを斬るべきだったのよ」
「なんて、無茶苦茶な」