第911話 深淵の底
アレックスは体を拘束されながら、廉に突進をする。余りにも突然の事に廉は咄嗟に炎神の魔剣で防御をする。
「えっ?」
廉は予想もしていなかった炎神の魔剣の破壊に思わず、声を溢すと同時に意識を失う。
「廉!」
舞は倒れた廉の元へと駆け寄る。
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「ここは何処だ?」
黒い水の底で廉は目覚めた。
「お前が今のレヴァンティンの使い手か?」
廉の目の前にスキンヘッドで無精髭な男性が現れると、黒い水は一瞬で消える。
「誰だ。おっさん」
「おっさんか。そう思われても可笑しく無いな」
「……あの、ここは何処ですか?」
「お前の精神世界だ。レヴァンティンの適正者よ」
「何で、俺の精神世界に身に覚えの無いおっさんが出てくるんですか?」
「俺がお前の前のレヴァンティンの適正者だったからだ」
「そうなんですか?」
「そうなんだ。他の奴らも居るんだが、今は現れたくは無いらしい」
「貴方以外も居るんですか?」
「貴方やおっさんではない。スミス・レベレスタだ!」
「レベレスタ……マーク・レベレスタと関係あるんですか?」
「あるぞ。俺はマークの叔父だ」
「……レヴァンティンの前任者って事は俺の産まれる前には」
「あぁ、お前が産まれる前には亡くなっている。マークには同情するぜ。レベレスタ家の宿命から逃れず従うしか無いとは」
「……俺は記憶を失っていて、良く分かりませんが、マークはかつて木山家と檜山家を襲わせた張本人ですよね。それが関係しているんですか?」
「あぁ、詳しくは言えない。俺が知る限り、木山廉……お前が知ったら、多分、マークを責めることは事は出来なくなるぞ。俺の見てきた木山廉とはそう言う男だ。知る限りは……もしかしたら、違った答えなのかもな」
「レベレスタ家の事については何も聞きません。記憶が戻っても、今のままでも、マークを責めるつもりはありません。守りきれなかったのは俺の落ち度ですから」
「……その考えに至るとは恐れ入った。大人だな」
「子供ですよ。この力の無さも、知識の無さも、全て」
「……その若さで様々な考えや感情が不安定な中で、どの様に進んだら、良いのか分からないものだろう。誰かに教えられても、それが合っているのか、どれが正解なのか分からないものだ。判断は経験と勘で決めていけ」
「経験は分かりますが、勘って言うのは」
「経験で補えるものはたかが知れている。後は己の勘だ。なんと無くで構わない。確証等なくとも、己の信じた道を進め」