第894話 逃走劇
ノアは堂々とスカーレットに背を向けたまま、翼をはためかせ逃走を行う。
勿論、それを見逃すスカーレットでは無い。
「ゼブラ・ストライク」
両手から放たれたその一撃は今のノアに防げる訳も無い。
今のノアに出来るのはせいぜい、避ける事だけであった。
「いつまでも避けられると、思わない事ね」
「悪いけど、この下らない。逃走劇はここで幕引きよ」
ノアは左腕から黒炎に燃える魔法陣の様な刻印を無数に出現させると、そこから黒炎に燃える悪霊の様な存在を出現させる。
(春夏冬秋人の力に酷似している?本人を封印した事と関係が有りそうね)
スカーレットはイギリスで見せた秋人に似た力を見て、同じく吸収である事から、迂闊な攻撃は止め、ノアを直接狙う事にした。
「カオス・インパクト」
スカーレットは両手から放った広範囲の攻撃を繰り出す。
ゼブラ・ストライクの一直線で一ヶ所のみを狙う攻撃では、ノアが簡単に避けてしまうが、カオス・インパクトは広範囲の為、回避が難しい技である。
ノアは悪霊の様な存在に接触することで、その場からの離脱に成功を果たす。
「……逃したか」
ノアの逃走が成功したその時、刻印の影響によって動く事が出来ないレジスタンスは足止めを食らっていた。
「……何でも、良い。ここから動ける方法は無いのかよ」
痺れを切らした雲雷だったが、それに答えられる様な方法は無く、誰もどうする事も出来ずにいた。
そんな状況に現れたのはアメリカ軍最強の男と言われるマーク・レベレスタだった。
「こんな所で何をしている?」
「マーク・レベレスタ!」
マークの登場によって、武田は怒りを露にする。
「どうかしたんですか?」
「木山、覚えていないかも知れんが、こいつだ。こいつが山梨支部にゼウスを向かう様に仕向け、木山家と檜山家を初めとした山梨支部の名家が滅んだのは、こいつのせいだ。そして何よりも、木山……お前の記憶を失う原因を造ったのはこいつだ!」
「……こいつが」
「そうだ。こいつがゼウスの炎の封印を木山家、檜山家に依頼をしなければ」
「……今は怒りや憎しみをぶつけている場合じゃあありません」
廉のその言葉に武田はそれ以上何も告げられなかった。
「大人だな。そこの図体だけの奴と違って」
「……」
「怒りを抑えるのに一苦労か?俺としても、辛い選択だった。本来なら、木山家とは仲良くやって行こうって話だったのに……お前さえ望むなら、そこの刻印やアメリカ軍本部に入る事を認めてやるよ」




