第892話 二人の女
雲雷のその言葉によって、秋人が連れ去られた事実がその場に居る全員に伝わる。
「……連れ戻そう」
廉のその言葉を実行するには目の前の黒炎の魔法陣の様な刻印をどうにかしなければ、いけないのだが
「……無理だ。それが出来ているなら、話し合い等しないで助けに向かっている。出来ないからこそ、こうして話している。目の前には黒い炎の刻印だ。空も地上も覆われている事から、前からは助けにはいけない」
ジークのその話を聞いて、廉は直ぐ様反論する。
「だったら、後ろから行けば」
廉のその言葉に紫音は直ぐに否定的な意見を告げる。
「無理だよ。背後にはアメリカ軍本部がある。アメリカ軍本部が事情を話して、敷地内に入らせてくれるとは思えない」
「……だったら、どうすれば」
「アメリカ軍本部は最低一日一回は本部を移動させると聞いた事がある。本部が移動するまで待って、それから背後から移動する方法を取るしか」
「それじゃあ」
「あぁ、手遅れになる」
レジスタンスのメンバー達が足止めされているその最中、秋人を封印したノアは逃走を続けていた。
「……そんなに急いでどうしたの?」
その声にノアは立ち止まる。無視して走り続けても良かったが話しかけてきた女性が目の前に居るのとその女性が無視出来る様な相手ではなかった事でノアは足を止める事を決断する。
「アメリカ軍の大将がこんな所で何をしているの?」
「……それが任務だからと言っておきましょう。アメリカ軍本部で暴れておいて、ただで帰れるとでも?」
「……任務なら、アメリカ軍本部に現れた時点で動いなかったでしょう?」
「レジスタンス達や貴女達チーム[ダイヤ]はアメリカ軍本部の敷地内の外でやって戦闘していたでしょう?」
「可笑しいわね。ここは更に敷地内から離れた場所よ」
「そうね。レジスタンスには私の部下の救出と、幻魔の討伐で借りがあるの。更にアメリカの為に送られた増援が操られている可能性があるなんて……私もアメリカを代表する大将の一人としてけじめをつけるわ」
「……それがアメリカの、スカーレット・クイーンの答えかしら?でも一つ忘れてない?私はイギリスの円卓の騎士団の傘下チーム[ダイヤ]の副リーダーなのよ」
「理解しているわ。それで何故その副リーダーが春夏冬秋人を封印しているかしら?」
「……ノーコメントよ」
「では、彼をここに置いておきなさい。それで貴女だけは見逃すわ」
「……困るわ。貴女まで封印しなければいけないなんて」