第866話 神器の崩壊
紫音のその言葉によって、氷は柚子が手にしている氷神の聖剣が溶けている事を認識する。
氷神の聖剣は柚子の体内に宿った神器であり、異能である。氷神の聖剣は柚子と精神深く繋がっており、氷神の聖剣が破壊されれば、される程、持ち主の精神を破壊する事になる。
「……大丈夫なのか?」
氷は柚子へと語りかける。
しかし、柚子は何の反応も示さなかった。
「……くそっ!」
「氷。なんとかして、神器を体内に戻そう」
紫音は氷に提案する。破壊されても、粉々にされても神器を体内に戻す事に成功すれば、神器は再生を開始する。体内で再生に成功すれば、精神状態も安定する事になり、現在の柚子を救う方法は柚子の体内に宿っている氷神の聖剣を体内に戻すことが一番簡単な方法である。
「……それしか無いな」
氷は柚子の元へと駆け寄る。
「大丈夫か?」
「はぁはぁ、うん!」
「氷神の聖剣を体内に戻せ」
氷のその言葉通りに柚子は神器を体内に戻す。
その直後だった、高温の液体と化したスライムが津波の様にして、四人へと迫っていた。
「……避けようも無いなぁ」
柚子を抱き抱えた氷は紫音と舞と合流し、素早く動く高温の液体が避けられない事を直ぐに悟った。
それは紫音、舞も理解していた事だった。
「……氷、舞、ここは僕がやる逃げるんだ」
「あの女が兄貴の剣と同化したからなぁ。あれで行くのか?」
「あぁなんとか。するよ」
紫音が覚悟を決めたその時、高温の液体と貸したスライムは何かに吸われる様にして、四人の前から消える。
「突然消えやがった。兄貴か?」
「僕は何も」
シェルターの周りからスライムは完全に姿を消したが、直ぐに巨体で無数のスライムがシェルターを取り囲む。
「どうする?兄貴」
「……津波の様に動いていたさっきと違って、今度は個体だ。これなら、逃げる事も、シェルターを目指す事も出来そうだ」
「……柚子がこんな状態だ。それを考慮してくれよ」
「……シェルターを目指そう。情報はジークフリード・アンサンブルから聞かない事には始まらない」
「……だったら、さっさと行こうぜ。スライムの動き出す前に」
「そうだね」
柚子を抱き抱えたまま、氷は走り出す。紫音をそれにつづくが、動かない舞に気付き、足を止める。
「どうかしたの?」
「何でも無いよ。(……私は……ここに居ただけ、何も出来なかった。お母さんが居たなら、皆を救えていた。どうしたら……お母さんは私の体に入って、何を伝えたかったの?)」
舞はゆっくりと足を進ませる。




