第854話 狂気の粘液(マッド・スライム)
「……呑み込むのさ。狂気の粘液はお前の体を包み、溶かすのさ」
アークのその言葉通りにイザベラを拘束していたスライムはイザベラの体全体を包み込む。
暫くすると、イザベラはスライムに取り込まれ、体はどこにも残っていなかった。イザベラを取り込んだスライムは形を変え、イザベラの姿へと変化する。
「さて、大将の一人であるイザベラの姿なら、シェルターの内部に簡単に入れそうだ」
イザベラの姿となったアークはイザベラの声で告げた。
そんなアークは地面に落ちている天帝空剣を目にする。
「……狂気の粘液でも、溶かせずに、形を保ったまま、造られた物でないな……神器か」
神器は能力、異能として、人の体内に宿り適合者でしかその神器を持つ事すら出来ない武器である。しかし、体に宿した神器は持ち主が死んだ場合や特殊な状況でのみ、他者が持つ事が許される事となる。
約一時間が経過しても次の適合者の手に渡らなければ、これから産まれてくる赤子の体に宿る。
「この神器は俺を選ぶかね」
アークは天帝空剣に手を伸ばす。
しかし、手に触れた途端に弾かれる。
「……姿は持ち主だが、拒否するか」
アークは天帝空剣を諦め、シェルターへと向かう。
「何だろう。この剣」
シェルターへと向かったアークは背後から聞こえたその声に反応する。
そこには女二人、男一人が居た。
(……チーム[バベル]が動いているこの状況でこのシェルターに来るのか。避難に遅れたのか?それとも、ここを一人で守っていたイザベラと合流をするために来た増援か?)
アークはこの場に突如現れた三人の対処をどうしたものかと頭を抱える。
三人と戦闘するなら、それほど簡単な事は無い。アークがしたいのは戦闘を避ける方法だった。
「……持ちやがった」
地面に落ちている天帝空剣を見つけた少女はそれを手にする。
三人がイザベラの姿をしたアークを見つめ何かを話しているのはその光景を見ていたアークは三人の出方を伺っていた。
三人は真っ直ぐ、アークの元へと歩いていく。
「……アメリカ軍の大将の一人……イザベラだな?」
遠くに居た為気づけなかったが、近くに来た事によって、その人物が誰なのか理解する。
(ジーク)
管理する神に所属するチーム[ヴァルハラ]の副リーダーであるジークフリード・アンサンブルを見て、アークは動揺する。
そして、何よりもジークと共に居る二人の少女も管理する神に所属している者なのか。それともアメリカ軍に所属している者なのか。それによって、アークが取る行動は変わる。